NOVEL

引きこもり女の裏側 vol.9 ~彼との出会い~

時折漏らす吐息は、無性に色気があった。

Aやビルとは違った感覚。

非日常の世界に深く入り込めるような、大人の時間。言葉はなくても、まるでそのときは愛されているような感覚があった。

 

もっと、近づきたい。

 

この時間が永遠であればいい。この感じは、いつぶりだろう。

幸枝は、たくましく大きな腕の中で、ゆっくりと目を閉じた。

 

―彼とは、距離感をもたないと。

 

服を着ながら心の整理をつけるが、昂ぶる気持ちは抑えきれない。

 

―もうひと晩、一緒にいられないかな。

 

このまま帰ってしまうのが惜しい。もう一度、すぐにでもあの感情を味わいたい。

もしかしたら、もう会えない可能性もある。焦燥感に駆られ、着替え終わった彼を呼び止める。

 

「あの、明日って空いてますか?よかったら、このまま泊まってみないかなー、と思って…。」

 

すると彼は、顔色一つ変えずに答える。

 

「明日は彼女とデートなので。」

「あ、」

 

やっぱり。彼女、いるよね。

 

「…そうなんですね。」

 

残念です、と言いたい気持ちをぐっと堪えた。

 

 

 

アプリでの人員補充計画は続いている。こちらからはなるべくいいねは送らない。

女性から送ると、相手に強く自分を印象づけてしまう可能性がある。だから幸枝は、万が一のためにいいねをもらった人の中から選ぶことにしている。

真剣交際希望の人が多くないと噂のアプリに登録したからか、お相手探しはそんなに苦労しなかった。

 

幸枝に興味をもってくれる人は何人かいたが、免許証を送ってくれる人はさすがに少ない。

顔写真を確認していると、不意にぼーっと考えてしまう。

 

この人は、あの人のように抱きしめてくれるのだろうか。

そういえば、あの人の彼女は、どんな人なんだろう。

―彼女といるときの彼は、どんな表情をみせるのだろう。

 

彼に愛される彼女が羨ましい。

少し、そう思ってしまった。