「ちょっ…新一…?」
ふりほどくでもなく大きく驚くでもなく、新一を見たのだった。
「新一…私もう結婚してるから」
そう言われた時カッとなり腕に力をこめる。これでは美果は動けないだろう。
このまま自分の腕の中から動けなくなればいい。あの身内のホテルになんて帰らなければいい。
独占欲がある方ではないのに、今の美果の前では衝動的になってしまう。
明日美果の旦那が帰国することを聞いているのも一因だろう。美果は不思議とこちらの感情をむき出しにさせる。
エレベーターホールで思わず腕を掴んでしまったときも。
名刺を無理やり握らせてしまったときも。
自分のオフィスへ最初に呼んだ時でさえ、ただの友人というスタンスのつもりが別れ際に腕を掴んでしまった。
美果の方にそんな気持ちがないのはわかっているし、既婚者の女性をわざわざ誘うつもりなんてない。
そんな面倒なことをするタチではないのだ。
じゃあ何故だろう…。
再会してから新一は何度も自問自答してみた。それには答えはない。
好きだとかそういう感情になるような熱っぽいものではなく、かといって冷静に考えられるようなものでもなかった。
ただ惹かれている。美果という人間に。
もし理由があるとすれば、崇高な美しさを持ち合わせていたからだ。
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新一と美果は昔の誤解を解き、改めて友人に戻る。その後、昇進試験に落ちたことを夫・高史に伝えた美果は感情が溢れ泣き出してしまう。