高史が帰国し有休を取って過ごす中、いよいよマネージャーポジションの結果が出て…。
前回:Silver Streak vol.7~元彼からの誘い、そしてキャリアアップの結果が出ないまま夫の一時帰国となり…。~
はじめから読む:Silver Streak vol.1~スイートルームから毎朝出社する女性。ホテルのバーでの思わぬ出来事とは?~
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緊張しつつもどこかで結果はわかっていたような気がした。
まだだるい体の感覚が残る朝、ホテル内のジムへ行く高史を見届けてから美果はぼんやりと天井を見つめていた。
ベッドの中でまどろむつもりはなかったが、メールをチェックした後に元気に起きる気力もない。
昇進試験の結果は予想通りだった。
加奈子にチャットしてみたところ、そのポジションはやはり帰国子女の女性が就いたようである。
フランスに希望を出さず、他の国にしていたら受かったのかな…。
そんなことを思ってしまうが、ただ昇進をしたかったわけではない。
やりたかったのはフランスのポジションだ。
帰ってきたら高史に伝えよう。そして今日はどこかへ出かけよう。気晴らしに名古屋を出て別の街へ行くのもよいかもしれない。
そう思いつつも美果は現実を受け入れられなかった。
やはり落ちるのは辛い。
結果から現実逃避するように新一と会った時のことを思い出していた。
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「ちょっと常滑に行こうか」
新一のオフィスに美果が着き、何気なく会話を重ねタイミングを見計らってそう言った。
こちらから誘う以上、夜だと何か警戒されそうだな…と思い土曜日の昼間に誘ったのだった。
普段なら週末でもオフィスで仕事をする者がいるが、ちょうど大きな仕事が終わりスタッフは皆ここに来ない筈だ。
外で会うのを躊躇(ためら)う美果を誘うには自分のオフィスが最適だった。
名古屋市内では親族に会わないか気を遣うのだろう。
旦那は経営に関わらないらしいが、三男であるとはいえ嫁の立場である以上は怪しまれる行動を慎まなくてはいけない。
美果はそういうところがきっちりとしている女性だった。
昔から自分のやりたいことは突き通しつつも、周囲の目にどう映るかも考えられる余裕を持ち合わせていた。
‘ちょっと仕事のことで見てほしいものがあるんだ。女性的な目線が欲しくてさ’
そんな文言をメールに書いて誘った。
何か理由がなければ美果が来ることはないだろうと思ったからだ。
その言葉に嘘はないのだが必然的な理由ではない。そんな風に誘った自分が狡(こす)く感じられたが、ただ会いたかっただけだ。
美果は小さく驚きつつも承諾してくれた。
「常滑ってことは焼き物?デザインと何かつながりがありそうね」
そう言って一緒に来てくれた。