名古屋での会食に義父のホテルを使うことは珍しくない。料理に定評があるレストランばかりだ。
「そう…なんだ」
前回聞けなかった疑問が腑に落ちた。
「今さら声をかけなくてもいいかなって思ってたけど、自分だけ気づいているのも悪いかなと。この前はバーで先に結構飲んでたからつい、ね」
気まずそうに苦笑いする。
「今日はありがとう。久しぶりに話せて…背中も押してくれて嬉しかった。さっそく応募してみる」
「おう。またいつでもどうぞ」
本心なのか軽い相槌なのかわからないがそう言ってくれた。
学生時代に別れた時、あんなに辛かったのが嘘のようだ。もういい大人だから当時のことは気にしないし話に出すこともしない。美果はそう思った。
時間が浄化させてくれたのかも、と考えるのは早計だろうか。
でも今日の再会はポジティブに影響したと感じている。
◆
応募したことを高史に伝えると思っていた以上に喜んでいたのだった。
自ら挑戦することでキャリアを切り拓いてきた彼にとって、自分以外の人が何かに向かっていくことは嬉しいことなのだろう。
「成功することは必要だけど、失敗から学ぶこともあるよ。挑戦したこと自体がこれからの自分をつくる糧になるから」
と啓蒙本のような台詞を言う。
「やだそれ、落ちることも考えろってこと?縁起でもない」
苦笑しながら美果が答えると、画面越しの高史は慌てて手を振る。
「違う違う、そこまで今は考える必要はないけど結果がどうであれ美果にとっては挑戦そのものがプラスになるってことだよ」
その必死な言い方が自分以上に自分のことを応援してくれているようで嬉しかった。
何気ない高史とのやり取りを終え、ベッドに向かおうとしたときだった。
チャット画面が光る。
手に取ってその送信者を見た途端、わずかに心臓が嫌な音を立てたように感じるくらい、それは望んでいない相手からだった。
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集まりに呼ばれ、いつも通り嫌な思いを感じつつも自分自身の価値観を認識する美果。その嫌がる彼女を集まりに誘った人物とは?