元彼との再会により昔の記憶がよみがえる中、加奈子に相談をするが連絡を取ることを勧められる。メッセージを送るとすぐに返事が来て…。
前回:Silver Streak vol .3~思いがけない再会と渡された名刺。変わりなく過ぎていく毎日に訪れた刺激とは…?~
はじめから読む:Silver Streak vol.1~スイートルームから毎朝出社する女性。ホテルのバーでの思わぬ出来事とは?~
◆
ふぅ。
重々しく且つ緊張して送信ボタンをクリックする。
これで必要書類はすべて送った筈だ。
月曜日の就業間近、美果はレジュメを人事部に送った。一晩かけてシンプルかつ自己アピールする内容を冷静に書いたつもりである。
タイトルは「Job posting: Manager position for new department」。
新規企画部門のマネージャーに応募したのだった。社内公募で先週出され、締め切りは今週末。
迷う時間はまだあったのだが、気持ちが固まった以上早く送りたかった。
美果の商社は業績が好調なこともあって、昨年より販路を広げており既にいくつかの新規部門が立ち上げられている。
既存の部門も人員確保に乗り出していることから後輩や部下が少し増えてきたのだった。
そんな中で募集が出された今回。
輸出の割合が高い現在の状態から輸入を増やし、双方のバランスを取るために立ち上げられた部門でマネージャー職の募集があったのだ。
社内は輸出と輸入の大きな2本の柱で分かれているが、そこから更に地域や扱う商材ごとに細かく分かれている。
今回は輸入に力を入れている欧州担当を更に分割し、国ごとに部門を細分化するようだ。
イギリス、スペイン、ポルトガル、ドイツ、イタリア、そしてフランス。
現在の欧州担当部門の人員だけでは管理職を賄うことができないため、社内公募がなされたのだった。
応募時には必ず希望国名とその理由を記載すること、とあったので美果はもちろんフランスについて記入した。
理由はフランスの食や文化の魅力を十分に理解しており、日本の顧客に届けたいという想いが強いこと。そしてフランスに留学していた経験から現地とのやり取りもスムーズにできるということ。
ネイティブレベルの語学にはまだ少し足りないのを自覚しているのだが、ここはアピールのしどころだ。社内にはフランス留学経験者は少なく、圧倒的に英語圏での経験を持つ人ばかりだから強調しておくべきだろう。
提出した後はひとまずすっきりとした気分になった。どうして迷っていたのかが不思議なくらいである。
夫に相談した時、彼は応援してくれたし美果なら大丈夫だよ、もし駄目でも上を目指したいというアピールになる筈だ、と促してくれた。
それは予想通りだった。
きっとそう言うだろうと思っていたから高史の言葉で背中を押されることはなかったのが正直なところだ。
今回一歩進むことを促してくれたのは他でもない新一だった。
◆
「迷っている理由が失敗したら恐いとか嫌だ、というだけならトライしてみれば?」
グラスに炭酸水をそそぎながら軽い調子でそう言った。
美果の話をひとしきり聞いた後のことだった。
外で会うのはちょっと気まずい、と伝えたら自分のオフィスに来たらいいよ、と返信が来たのだ。