NOVEL

Silver Streak vol.2~スイートルームで暮らす何不自由ない女性。キャリアも順調な彼女をいきなり掴んだその男は…?!~

とりとめのない話をし、一杯飲み終わったところでバーを出た。

新一の方はああやって声をかけてきたわりにはドライな対応だったし、美果の質問に結局最後まで答えることはなかった。

元々学生時代の知り合いだったこともあり、共通の友人の話や教授の話を懐かしくしてくるだけで、今の美果の生活に対して何も触れることはなかった。

それはバーテンダーの手前なのか、それとも意識せずにそうしたのかはわからない。

もどかしさは感じたものの、結果として他の人に聞かれても困らない会話だけで終わったのだった。

耳にしたところ、学生時代の懐かしい話をしているだけでありただの友人同士が再会したように感じただろう。

 

周りの目には疚(やま)しい関係には見えなかった筈だ。一応、有難かったといえる。

軽く「おやすみ」と言ってさらりと別れた今、じゃあ何でわざわざ声をかけてきたのか、そして何故美果がここに滞在していることを知っていたのか気になってしょうがない。

 

そして手のひらに収まるこの名刺…。

くしゃっと折られた名刺を別れ際にさりげなく握らされたのだった。

けれどもそのさりげなさだからこそ美果は思い当たるのだった。

バーで何気ない話しかしなかったのも、こんな風にさりげなく名刺だけ渡していたのも、きっと美果が今はこのホテルの親族だと知っていたからではないだろうか。

それに合わせて立場が悪くならないように気をまわしてくれたのではないか。

そこまで思ってしまうのは変だろうか。

 

お酒のせいでぼんやりとしたまま天井を見上げる。このままだとソファで寝てしまいそうだ。

十分横たわれるサイズのソファだけれど、せっかくキングサイズのベッドがあるのだからそっちに行きたい。

でも。

両手でその名刺を延ばす。

幾何学模様が薄くプリントされた上に見える文字。角度により色が微妙に変化し光沢が魅力的にあらわれる。

新一の肩書は「代表取締役/デザイナー」だ。

でも、それを見ても違和感がなかった。

会社の名前こそ知らなかったが元々自分の会社を立ち上げたかったのを知っているし、彼であれば叶えるだろうとどこか感じていた。

高史と結婚する前、もう15年以上も前のことだ。

 

お酒の酔いのせいかもしれない。

なんで美果がここにいることを知っていたのか。これまでも見かけていたのか。

どうでもいいことかもしれないのに気になってくる。

名刺には携帯番号もSNSIDも記載されている。

これを渡してきたということは連絡をしろってこと…?

疑問と期待が入り交ざる中、美果はバッグからスマホをそっと取り出した。

 

 

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部屋に戻り別れ際、元カレ・新一から渡された名刺をぼんやりと見つめる美果。後日チーフの加奈子に相談すると、予想外の言葉が返ってきた。