〜2番目の女からの卒業〜
「例え2番目でも、そばにいられるだけで幸せだから」
そんな言葉を心から思っている人なんているのだろうか。
1番になれない女なんて、ただの浮気相手。決して周りから祝福される恋ではない。
例え2番目から1番目に昇格したって「略奪愛」と言われるだけ。
そんなこと、とっくにわかってる。だけど「好き」は止められない。
「ねえ友梨ちゃん、今日泊まりに来ない?」
大学での授業が終わり、仲が良い数人で帰っている途中で、同級生の翔太に話しかけられる。
側から見たら、カップルにしか見えないだろう。だけど、私たちの関係はそんな甘くて幸せなものなんかじゃない。
翔太には、彼女がいる。しかも、結婚まで考えている彼女が。
それは左手の薬指にはめられた指輪が物語っていた。だけど私には、誘いを断る勇気なんてない。
だって私は、翔太のことが好きだから。
翔太の家には、週3くらいのペースで通っていた。こんなに通うことができるのは、翔太と彼女が遠距離だったから。
きっと私が呼ばれていたのは、寂しさを紛らわすためだったのだろう。
家に着いてからのパターンは大体一緒。コンビニで買ったご飯を食べて、シャワーだけ浴びて、布団に入る。その繰り返し。ムードなんてかけらもない。性欲を満たすだけ。
次の日だって、朝起きて一緒に家を出て大学に行くだけ。もしも私が彼女だったら、もっと甘い時間を過ごせたのかな?
翔太との関係を続ける傍ら、就職活動の時期に差し掛かった。自然と私と翔太の距離は離れていった。
これが「自然消滅」というやつか、浮気に対していえるかどうかは分からないけど。
このまま、終われば良いんだ。そう思っていた。
だって私と翔太の恋は、許されるものじゃないから。でも、神様はそう簡単に終わらせてはくれなかった。
その日は、第一志望の企業の説明会が終わって帰る途中だった。
私の第一志望は広告代理店。丸の内にオフィスを構える大手だった。説明会を聞き終わった私の志望度はさらに上がっていた。
今日は帰って、志望動機でも書いておこうかな。
帰りの電車で窓から流れる高層ビルを眺めながら、自分の将来のことで頭がいっぱいだった。あの声が聞こえるまでは。
「あれ、友梨ちゃん?」
最寄り駅まであと10分くらいのときだった。あの聞き慣れた声が聞こえたのは。大好きで忘れたかった人。
見慣れないスーツ姿で、いつもより丁寧に髪をセットしていて、今までよりかっこよく見えた。悔しいけど。
「この後空いてる?」
そう言った翔太は、私の手を引いた。返事なんて、聞くつもりないのに。せめてその指輪くらい、外してから誘えば良いのにね。
だけど断れない私も私。