NOVEL

Second Woman vol.2~惹かれてはいけない女性~

純が出会った女性は海外勤務から戻ってきたばかりだった。名前を知ると同時に彼女の過去を知らされる。

コーヒーを一杯入れただけの数分の時間。たったそれだけが鮮やかに思い出されるのだった。

 


前回:Second Woman  vol.1~その後ろ姿にただ惹かれた、それだけの筈だった~

 

フラットホワイト。

エスプレッソの苦みをより強く感じる一杯。濃い目の大人のカフェオレ。

ニュージーランドに居た時、近所のバリスタにそんな風に教えてもらった。

日本ではカプチーノやラテが定番だったから、その少しダークな味わいと「フラットホワイト」と発音する英語の軽い感じが耳に心地よかった。

そしてそれを発音する唇はいまも苦い記憶となって残っている。

ピピピピピピ………。

起床を告げるアラームを止め、無理やり体を起こす。

昔のことを思い出すなんてどうかしている。きっと昨日フラットホワイトなんて入れたからだろう。

ベッドから起き、いつもどおりブラックコーヒーを淹れる。

支度している間、豆を挽いた後の香りが部屋中に漂うこの時間が好きだ。包まれるようでリラックスできる。

昨日三村がフラットホワイトを当てたのは少々意外だった。バリスタを目指していたというのも初めて聞いたくらいだ。

 

そしてミーティングの後に見かけたあの女性の後姿。

名前を知ると同時に聞いた話は本当なのだろうか。

多くの場合、海外勤務は経験を積むために実力のある者が選ばれることが多い。しかし彼女は違う。もちろん実力もあるのだろうが、飛ばされたといってもよい事情だったようだ。

三村が知っているということは社内でも噂になっているのだろうな…。

戻って来て大丈夫だったんだろうか。

そして俺は他人事ながら何故こんなに気になるのだろう。

 

「さてと、商談も終わったし今から飲みにでも行く?」

三村が言う。

本日最後の商談が終了し今は17時。いつもならこのまま直帰するところだ。

「悪い、今日はちょっと会社に戻るわ。資料を早めに作っておきたくて」

「えー?マジメだなぁ純くんは」

三村は残念がったが早々に言い訳をして別れる。

急ぎの資料ではない。ただ、商談をする中でまとまったアイデアをある程度目に見えるかたちにしておきたかった。

きっとこのまま飲みに行っては忘れてしまうだろう。

それに少々三村から離れたかったのもある。

最近よく飲みに行ったり仕事を一緒に進めることが多い。同じ部署なのだから当たり前なのかもしれないが俺はそんなに鈍い方ではない。

三村からの好意をたまに感じることがあるのだ。

自意識が過剰と言われればそれまでかもしれない。ただの気安く話せる同僚というだけなら良いのだが、今はそういう面倒は避けたかった。

彼女もいないのに自分からそのチャンスを見送るとは、30過ぎた男としては少々変わっているかもしれない。

 

会社に戻り、ある程度作業をしていたらそろそろ19時になるところだった。

金曜日であるせいか電気の消えた部署が多く、ほとんどが退社しているようだ。

うちの会社は仕事ができる人間ほど定時で上がる社風なので、この時間は夜勤勤務のシステム部しか残っていない。

 

軽く空腹を感じたので休憩室へ向かう。一杯コーヒーを飲んでから帰るのも悪くないだろう。どうせ明日は休みなんだし。

 

ドアを開けた途端心臓がはねるのがわかった。