珠子はそう告げると、伝票を手にして席を立った。
カバンから財布を取り出すついでに、起動させていたスマホのレコーダーをoffにする。
―これで、証言は取れた―
たとえ、愛子が金の無心に来たとしても構わない。
でも、子供を認知しろとは言わせない。
あのプライドの高い女が、何処まで仕掛けてくるのか…?
まさに、見ものだと珠子はスマホを握りしめた。
今晩のディナーは家族全員で取りたいと、珠子から申し出て、昌枝がそれを承諾した。
道隆も雄一郎も、昌枝の一言には従う。
昌枝が珠子に求めたことはただ一つだけだ。
『西園寺家の嫁としてあれ!』
血族関係から嫁に入っていない珠子が、嫁として確固とした立場を確立する為に必要なことは、ただ一つしかない。
麻梨恵の差し金であることは明らかで、初めて飛成から『流沢家主催のパーティに来ない?』というメールが入った。
何処から情報が洩れて、何処から仕掛けてくるのか。
誰も信じないし、誰の事も必要としてはいけない!
珠子は『今日は無理』と返信して、ディナーの舞台へ向かった。
性懲りもなく、勝ち誇った表情を浮かべて芽衣が布巾を並べていた。
そういう所が、まだ青いのだ。
いち早く、リビングに向かった珠子は、芽衣の耳元に囁く。
「保育士と園児じゃ、愛し合えないわよ」
芽衣が蒼白になり、珠子を睨みつける間も与えずに珠子は席に座る。
道隆、昌枝夫婦が姿を現した後に、ラフなジャケット姿で雄一郎が駆け込んでくる。
「皆さん、揃ったようなので…お食事の前によろしいですか?お義母様」
他の誰でもなく、昌枝に話を投げた。
昌枝は、言葉なく手を差し出して『どうぞ』という仕草で促す。
「私、雄一郎さんとは体外受精をしようと思います。それなら、100%私たちの子供ですよね?お許しを頂けますか?」
その場にいた男達は、ギョッとしていた…
だが、昌枝だけは、ニッコリ笑ってゆっくりと手を叩いた。
「流石ね、珠子さん!私は賛成するわ」
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次回最終章!ディナー後、雄一郎の激怒に恐ろしいくらいの冷静さで対応した珠子。西園寺家の実権を握るべく、珠子の考えた目論見とは!?