愛子の勤務先近くのカフェに、珠子が向かったのは翌週の13時頃だった。
妊娠中でもギリギリまで働く姿勢は、愛子らしいと思う。
何食わぬ顔で現れた愛子に、珠子も前と変わらない笑顔で応対した。
愛子はいつも以上に饒舌だった。
連絡が出来なくて申し訳なかった、お土産は喜んで貰えた?
矢継ぎ早に話してくるが、愛子が用意した服も送られてきたブランド品も持っていないことで、予想はついているはずだ。
それでも変わらずにいられる神経の図太さに、珠子の覚悟は決まった。
「妊娠何か月なの?」
「もうすぐ、4カ月を迎えるところよ」
「結婚は…?」
「しないよ。男なんていなくても生きていけるもの」
愛子の勝ち誇った顔を、搔きむしりたくなる。
しかし、此処は冷静に…。
「…父親は誰か分かってるの?」
絞り出すように確信の言葉を告げたが、愛子は平然としていた。
「それは、珠子なら分かると思うけど?」
―そうくる…―
珠子はほんの僅かな希望を全て捨てる覚悟をした。
「それは、まさか、雄一郎さんの事?でも、愛子にはお相手が多いから、特定できないでしょ。たとえ、あなたが時期的にそうだと言っても、確証はないわよね?
確証を持ちたいなら、産んだ後にDNA鑑定してからじゃないと。
色んな男性と関係を持っているのは、周知の事実でしょ。
まさか、そんな女の分際で、認知してくれなんて…図々しい事言わないわよね?」
珠子が捲し立てるように、言葉を吐き捨てると、流石の愛子も固まってしまった。
妊婦に精神的な苦痛を与えることが、どれだけ酷なことなのかは同じ女として配慮してやりたい気持ちになるが、愛子のしたことへの返礼にしてはまだ甘い。
「雄一郎さんも遊び人だし、落とし胤がどれだけあるか…困ったものよ」
愛子の表情が明らかに変わっていく。
このくらいの批判で感情的になる女ではないが、今は妊婦だ。
ホルモンバランスも不安定だろう。
普段の愛子相手に口論で勝てる気はしないが、今なら可能性はある。
「言いたい放題言ってくれるじゃないの!
男を満足させることもできない、飾りのくせに!
私がいつ、認知しろなんて言った?私は一人で育てるって言ってるのよ!」
「そう、そうしてくれると有難いわ。じゃあ、祝いにここのは奢るわ。お身体大切にね」