裏切った愛子には渡さない。
若くて可愛いだけの芽衣には、邪魔させない。
細やかな楽しみだったイケメンとの時間は、もう要らない。
何よりも窮屈な檻の中で、一生飼われていく雄一郎にさえ、興味も情けもかけない。
『最初から…雄一郎さんじゃなくて、西園寺家への玉の輿だけが、私の目標だった…
なんてすり替えたら…ダメよね…』
珠子は『アンデルセン』で雄一郎と過ごした、幸せな時間を思い出していた。
雄一郎が西園寺家の者だとは知らずに、ただ話していて楽しかった日々。
「珠子のそのおっとりしたところが、なんか落ち着くな」
そう言って微笑んでいた彼が、あの時の彼こそが…本来の彼であった事を信じたい。
―愛していました。だから、さようなら…―
珠子は、雄一郎に渡されたダイヤの婚約指輪を外し、オーダーメイドの結婚指輪だけをはめて、次のステップへと踏み出す覚悟を決めた。
珠子の卵子は、すでに病院に保管されている。
明日は、何としても雄一郎を病院に連れていく日だった。
梶原には、芽衣の荷物をまとめさせている。
芽衣に拒否する権利を与えずに、追い出す手配をして、最後の命綱として流沢家を握らせてやったのが珠子の最後の情けだった。
愛子に最終通告をしたとき…、胸元にダイヤのネックレスはなかった。
しかし、まだ芽衣の耳のピアスは光っている。
それを外す日も、そう遠くはない…だろう。
飛成と寄り添う芽衣を見て、珠子は自分の左薬指にキスをした。
―…逃がさない…絶対にね!―
貴方は、私の為に西園寺という綱に縛られて…永遠にね。
―The End-