珠子は次に、飛成を西園寺家主催の夜会に呼び出した。
飛成は、流沢家の血族ではあっても、子会社に入社したての平である。
誰かの後ろ盾なしに、西園寺家の門はくぐれない。
勿論夜会を主催したのは、珠子だった。
『慰労会』という名目で、珠子の知り合い筋だけを呼んだ。
義父母から異論がなければ、雄一郎も何も言わないし、姿を現さなかった。
それが、目的であったことも知らずに…。
珠子は芽衣を指名し、手伝いをさせた。
若くて可愛い芽衣は、直ぐに参加者に気に入られ、ホステスのようにお酒を注がされる。
酔いが回ってきた、オヤジが芽衣にちょっかいを出すのを遠目に見ながら、飛成の様子をうかがっていた。
麻梨恵にさえも、はっきりと言う若者だ。
相手が誰であっても、注意はするだろう。
そして、若者は出会う。
雄一郎のような、初老の幼児ではなく、少し年上の本物の美青年と…。
珠子の計画は、二人に出会いの場を提供することだった。
飛成が若い子が好きなことは分かっていた。
西園寺家とのつながりの為に利用されることを快感と思っていた。
でも、今はもう要らない。
芽衣は可愛い少女だ。
そして、健気だとは思う。
憎たらしくもあるが、そこに情をかけて逃がしてやる…と同時に、この家から追い出す計画があった。
飛成は珠子の算段通りに動くが、芽衣が上手く靡(なび)かない。
その時、麻梨恵が飛成に声をかけ「この子に外の空気でも吸わせてあげな」と促してくれた。
男を転がす女は、気の使い方が違う。
麻梨恵にとっても、芽衣が目障りだった部分は多大にあるのだろうが…。
「飛成は、あなたのお好みじゃなかった?」
麻梨恵がわざとらしく珠子に声をかけてくる。
「好みだったわよ。私が10歳若かったらね…。
だけど、それじゃ相手にされなかったと思うわ」
そう、珠子は『西園寺家』を名乗ることによって、初めて生まれ持った美少女と張り合う位置に、鎮座できただけなのだ。
それも、珠子の手からすり抜けていく。
『欲しい物は、一つにしなさい!それを大切できる人になりなさい!』
「お玉さん」に憧れていた頃に、親に言われた言葉が蘇る。
―私が、欲しいモノは…一つだけ。西園寺家の血を継いだ、私の子供―