NOVEL

玉の輿vol.10 最終回~初志貫徹の章~

幼馴染で元婚約者ならば、雄一郎の事をよく知っているはずだとは思うが、それをすんなりと珠子に教える保証はない。

それでも、珠子の中に芽生えた確信が暴走する。

 

『そもそも、欲しいのは雄一郎ではない。西園寺家である。

強いて言えば、昌枝の立場にのし上がることだ!』

 

その為に、邪魔になるものは、切り捨て、使えるものは如何様にも利用する!

 

「珠子さんから、私に会いたがるなんて、不思議なこともあるものね。

何か、不都合なことでもあったのかしら?」

その口ぶりだけで、麻梨恵は愛子の妊娠を知っていることが容易に知れた。

「不都合ではないですよ。ちょっとしたアクシデントです。

それより、麻梨恵さんは…なんで雄一郎さんと続かなかったのか…

そっちの方に興味があります。彼の為に、全身整形までして努力されたのに」

 

麻梨恵が珠子にするように、珠子は麻梨恵に直球を投げる。

麻梨恵は少し驚きつつも、一瞬にして腹を抱えて笑い出した。

「アハハハ…なんだ、世間知らずのコケシだとばかり思っていたけど、人並み以上の欲はあるわけね!」

 

口もきけない、ただの置物のコケシだと言われようが、愛子に飾りと評されようが、もう構わない。

珠子には『西園寺家の嫁』という看板があるのだ。

 

その気配を感じてか、麻梨恵は両手を上げて「降参するわ…何が知りたいの?」と距離を縮めてきたが、猛禽類に隙を見せる訳がない。

 

珠子は大きく深呼吸をした。

「雄一郎さんの女癖が悪いことはさておいて、あなたが身を引いた理由を知りたいんです」

 

麻梨恵がどこまで知っていて、何を隠しているのか?

そして、この手札がどこまで使えるのか。

麻梨恵は、一寸間おいてから口を開いた。

 

幼い頃から、雄一郎は王子様のようにモテはやされていた存在だった。

しかし、彼にとってあの西園寺家とは檻の中と同じ。

常に、監視され…将来を決められ、窮屈で仕方がなかったのだろう。

だから、その息抜きが必要で、彼は極端なロリコンになったのだと、麻梨恵は告げた。

 

麻梨恵は雄一郎の隣に行きたくて、綺麗な女を目指したが、それは雄一郎の求めるソレとは真逆だった。小太りで、可愛くなかった頃の方が雄一郎は麻梨恵に優しかったと言う。

 

「だから、最初あなたを見た時。腹が立ったわ…昔の私ならってね…でも、違うわね。

私は、そこまで雄一郎に拘れない」

 

麻梨恵の発言は、最後の最後まで失礼だった。

しかし、この女は純粋に雄一郎を愛し、裏切られた女でしかない気がした。

珠子の中では、雄一郎はただの西園寺との胤(たね)でしかない。

それを考えてみたら、珠子は麻梨恵よりも、姑息なのかもしれない。

 

「麻梨恵さん。今でもそんなに雄一郎がお好きなら、たまには抱かれてあげて下さい。

でも、変なトラブルだけは、十分にお気をつけて」

 

正妻だからこそ言える言葉であり、だからこそ凶悪な爆弾を落とす。