(やっぱり……早まったかな)
夜に食事を、ということで警戒されたんだろうか。そもそも、槙さんは僕のことを同志と言っていた。その相手が食事に誘ってきて――もしかしたら、裏切られた気分になってやいないだろうか。
(でも、槙さんなら嫌ならきっちり断るだろうし……)
本人もそう言っていた。ということは、僕との食事は嫌ではないのだ――と、思う。思いたい。後から嫌になったとかは……あり得るかもしれない。この間の僕のように。
「御前崎さん?」
「あ、いえ」
いけない。変に勘ぐったり心配したりしたところでどうにもならないのだから、今に集中しなければ。あははと軽く笑い、意識を切り替える。
「久しぶりなんで、道が合ってるか心配になって。でも、大丈夫そうです。お店、イタリアンバルなんですけど、ワインが結構美味しいんですよ」
「私、お酒は遠慮しておきます」
はっきりと言われ、あれ? と思う。けれど、そう断る以上、飲む気はないのだろう。
(この前、やけ酒したって言ってたくらいだし、お酒が嫌いなわけじゃないんだろうけど)
僕が一緒だからか? やっぱり警戒されているのかもしれない。
また、ぐるぐる考え始めそうになっていると、「イタリアンは好きです」と槙さんから言ってきた。
「パスタとか、ピザとか」
「へぇ……槙さんも、そういうもの食べるんですね」
そう言うと、槙さんが「え?」と不思議そうにこちらを向いた。
「いや、よくサラダチキンとかプロテインを買ってらっしゃるイメージがあるから……あんまり、そういう糖質系は制限しているのかな、なんて……」
「……まぁ、そうですね」
何故だろう。また、距離が遠のいた気がする。
まぁ、もうすぐバルに着くし――と思っていた、そのときだった。
「あれ? 御前崎じゃん」
不意に名前を呼ばれ、反射的に振り返る。そこにいたのは、見覚えのある顔だった。
「えっと……鈴木か! 久しぶりだな」
「ほんと久しぶり。SNSとかで見てはいたけどさ、変わったよなぁ」
鈴木は中学生の頃仲良くしていた男子で、高校に行ってからもしばらくは、長期休みのときに会って遊んでいた。
懐かしさで思わず笑顔になりつつ、すっと薄寒いものが背中を走る。鈴木がここにいるということは――。
「なに? 御前崎くん? 今日やっぱり来られたの?」
ひょいっと鈴木の横から顔を出したのは、明るい髪色をした女性だった。その声に、過去の記憶がぐるんと頭を回る。