「行きましょうよ、同窓会」
やたらはっきりした口調で、槙さんが言う。僕はぽかんと口を開けて、「え?」と変な声を出してしまった。
「いや、行かないですって……」
「私も一緒に行きます。御前崎さんが話せなくなったら、私が代わりに話します」
「いや、あの」
「行って――その相手に、文句くらい言ってやりましょうよ!」
拳を握る勢いで言う槙さんを、僕はぽかんと見上げ。「いやいや」と、ようやく立ち上がった。
「ありがとうございます、気持ちは嬉しいです。けど、もう昔のことですから」
「昔じゃないです」
なだめようとする僕に、槙さんは噛みつくように言い返してきた。
「全然、昔じゃないです。だって今も、御前崎さん傷ついているじゃないですか。苦しんでいるじゃないですか。そんなの、全然昔じゃないです。現在進行形の問題です」
「それは――そう、かも……しれないけれど。でも」
「どうして傷つけられた方が遠慮しなくちゃいけないんですか。そういうのは、理不尽というものでしょう。私はそんなの――そんなの……嫌、です」
しゅるしゅると。槙さんから、力が抜けていく。唇を震わせて、全身で怒っていて。でも、僕の顔を見て、振り上げかけていた拳をゆっくりと下ろしたような。
「ありがとうございます、槙さん。そんなふうに怒ってくれる人がいるって……それだけで僕は、心から嬉しい」
でも、と。僕は笑った。多分、情けない顔で。
「僕は、そんなに強くないんです。彼女の顔も、見たくない。同窓会の手紙を見るまでは、本当に忘れかけてたくらい――多分、思い出すのも嫌だったんでしょうね。無意識に、記憶の底に押し込めるくらい、嫌で」
「御前崎さん……」
「ないとは思いますけど、謝られたところでどうということもないですし、許すとか許さないとか、そういうことでも、僕の中ではないんだと思います。ただもう、そんなことに煩わされるよりも、目の前の問題をどうにかしたい。それだけなんです」
「……出過ぎたことを言って、すみません」
また、槙さんが頭を下げる。
「そんな。こちらこそ、余計なご心配をおかけしたり、こんなことお話してしまったり……」
「いいえ。――私、ジムで少し、嬉しかったんです」
「嬉しかった……ですか?」
はい、と頷いた槙さんは、少し柔らかい表情に変わった。
「御前崎さん、本当に私のペースでやりたいことをやらせてくれましたし。その間、ご自身も楽しんでくださっていたのが、なんて言うか……」
「……僕も、思った以上に今日は楽しめました」
良かった、と。槙さんが微笑む。