NOVEL

御前崎薫は… vol.3~ままならない~

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オフィスを出て駅へ向かうと、金曜日の夜らしく、飲み会帰りの男女が目につく。赤い顔をしてふらふらと笑い合い、もたれ合い。酒でいくらか理性が取っ払われた姿というのは、素面の立場から見ると、なんというかみっともない。

(そういや……最近、飲み会なんてしていないな)

職場では、基本的に飲み会を開かないことにしている。というのも、僕自身、前職で定期的に開かれていた飲み会が、しんどかったからだ。とは言え、気の置けない友人同士の飲み会は楽しいということだって知っている。非公式に同僚と飲み会をすること自体は禁止していないけれど、そうなると「社長」なんて肩書がついている僕は、逆に肩身が狭くて参加しにくくなる。

 

似たような立場の人だと、週末にパーティーなんか開いたりっていうのも聞くけれど、あれはどちらかというと人脈づくりのためのものだ。そうではなく、気楽に誰かと食事や酒を楽しみたい。いつもは一人での食事で充分に事足りているからこそ、ふと、そんな欲求が過る。

 

(葉山でも誘って……いや、でも結局仕事の話になるな。それに、葉山も最近子どもが生れたし……)

そっか、と。ふと、思う。学生の頃や新卒の頃は、友人たちとよく集まっていたけれど、それをしなくなったのは単に肩書が変わったからだけじゃない。年齢と共に、ライフステージが変わってきたからだ。

 

友人たちの多くは彼女ができたり、結婚したり、早ければ子どもが生れていたり。それぞれの生活の場を作っている。そうすると、当然縛られるものも増えるわけで、昔みたいにフットワーク軽く何でもできるというわけでもなくなってくる。こちらも、そのうちそのことが分かってきて、かと言って自分は同じ立場にいないから、どこまで気を遣えば良いかも分からず、結局フェードアウトしていく。

新しい居場所を作った友人たちを、羨ましいとも、逆に可哀想だとも思わない。ただ、変わったのだなと思う。

 

僕は思春期から女性に対する恐怖心を抱くようになったから、結婚どころか、彼女が欲しいとも思わない。仕事は楽しいし、会社を立ち上げてからは更に張り合いが出てきた。もっともっとできることがあるんじゃないかと思う。これだけ楽しいのは多分、仕事だけを思う存分、背負えているからだろう。家族という「責任」を背負うことになれば、その分、背負える仕事の配分は少なくなってしまうはずだ。

 

だから、僕はこれで良い。これが良い。特別、なにかを変えたいとは思わない。

(でもまぁ、仕事に支障が出るような今の状況は困るなぁ――)

はぁ、とため息をつき、どうにもならない問題に頭を抱えつつ、いつものコンビニへ向かう。今日は久しぶりに、ビールでも買ってみようか――と。

「あれ……」

自動ドアをくぐった途端、目に入ったのは先日の女性――槙さんだった。ヒールで、ピシっと背筋を伸ばしながら、お茶を買っている。こちらには気づいていない様子で、あの無表情でレジへと向かう。