NOVEL

「Lady. Bloody Mary」~女の嫉妬~ Vol.2

 

 

後ろ姿をみた瞬間、聖奈、紗夜、リノが一気に動き始めた。

自然と会話を切り上げ、そっとバーカウンターに、じりじりと近づいていく。

どうやら坂間はバーボンのロックを、バーテンダーと楽しげに会話しながら楽しんでいる。

互いのヒールの音で、坂間がふっと振り返る。すると素知らぬ顔で3方向から近づく女たち

「あ、今度ご一緒する方々ですよね」

坂間は実にスマートに椅子から立ち上がると満面の笑顔で彼女たちを迎え入れた。

3人の心境は「誰よりも早く彼に話しかけて、アピールしたかった」なのだが、こうなったら仕方ない。

それほどまだお互いのことを知っているわけではないが、空気を読んだ3人はまるで仲が良かったかのように、こんばんわと近づいていった。

「まだこの辺はまるで分からなくて」

清潔感あるタイトなスーツをきちんと着込み、少し長めの黒髪をサイドに流し、坂間は手を前で組みにこやかに迎え入れた。

「そうですよねぇ、あ、私、三宮リノです。どうぞよろしく」

さっと右手を差し出したのは、リノであった。若い2人よりも先に牽制をしておきたかったのだろう、自分のアピールの仕方も魅力もある程度、自覚しているからこその”自信”であった。何よりも後輩の2人が自分より先に突っ込んでこないだろうとも確信があった。

坂間はそっとリノの手を握り返す。

 

 

「坂間さんはずっと東京におられたんですねぇ」

リノが彼の会話の主導権を握ろうとした瞬間、あっと近くから声が聞こえた。

「あー、溢しちゃった」

そう嘆くのはとっておきのフレアスカートに手に持っていた微量の白ワインを溢してしまった聖奈であった。

「あー、大丈夫ですか?これ、ハンカチ使ってください」

坂間がPaul Smithのハンカチを彼女に差し出した。

「酔っていたのかな、思わず溢しちゃって...。すいません、お借りします」

「お気になさらず、えーっと...貴方は」

ハンカチでそっと雫を拭いつつ、聖奈は微笑みながら

「このプロジェクトメンバーに入らせていただきました、オペレーション部の安武です。かなり年上の方がいらっしゃると聞いていたので緊張してしまって...」

「そうなんですね」

ハンカチを返してもらおうと手を伸ばした坂間の手をネイルで彩った細い指で静止し

「きちんと洗ってからお返しします」

と首を少し傾げ、答えた。

 

その斜め後ろではリノが心の中で悪態をつく。これだから若いものは。これで男がころっと転ぶと思っている、人生イージーか、情けない。

そんな2人を冷静に見つめるのは、坂間と同世代の紗夜であった。

バーカウンターで坂間と同じバーボンロックを頼むと、そっと近づいていった。

 

 

 

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 遂にクリスマスイブを迎える...スパダリ男子と仕事、どっちも欲しい!欲深い美しき女性たちが遂に動き出す。