NOVEL

「Lady. Bloody Mary」~女の嫉妬~ Vol.1

 

 

 

 ”この世の闇路を 照らしたもう

 たえなる光の 主は来ませり

 主は来ませり 主は 主は 来ませり〜♪”

 

この会社の”闇”を払うのは私しかしない。

届いた社内メールを、じっと見つめる一人の女性社員。

既に社員たちは帰路にほぼついており、残っているのは海老原という上司だけであった。

「部長、このプロジェクトメンバーって、此処からも選出されるんですか?」

慣れた口調で話しかけるのは三宮リノである。

肩につくぐらいの髪の毛をマロンベージュに染めゆるやかなパーマをかけている。

今年で40歳を迎える彼女であるが、ずっと独身で会社の第一線で働いてきたということもあり、自意識も美意識もプライドも高い女性で

あった。

「あ、ああ...そのつもりだが。多分、研究開発部からも代表が行くはずだ」

名指しされた海老原は妙に怯えるように小さな声でリノに答える。

普段は厳しいと評判の海老原であるが、妙にリノに弱いところがあるらしい。

「ね、この企画。私にやらせてくれませんか?」

スマホで届いた社内メールの文面を彼に見せつつ、リノは目を輝かせている。

「えっ!?...いやあ、私だけの権限だけで決められることじゃあ...ないんだよ」

「そこを!だってあなた課長でしょ〜」

こういうときのリノはまるで押しが強過ぎて誰も止められない。

実際、こういう性格が部内でもまかり通っていることもあり、周りが年齢的にも後輩が多いことから、彼女は「お局」ポジションとして居座っていた。

仕事もできるし、他社のお得意様の扱いも慣れたものだが、彼女と共に入社した同僚は既に退社か結婚のために周りに誰もおらず、三宮リノといえば研究開発部を牛耳る「裸の王様」と密やかに囁かれていた。

「考えてといてくださいね...海老原、部長♪」

そう言い、miumiuの桃色のヒールを鳴らしながらファーコートを着込み退社するリノの後ろ姿を見て、はぁ...と1人ため息を零す海老原だった。

 

 

   “しぼめる心の 花を咲かせ

 めぐみの露おく 主は来ませり

 主は来ませり 主は 主は 来ませり〜♪”

 

イルミネーションで木々は、LEDライトで真っ青に街路樹が染まっている。

CKNの限られた社員に送られた社内メールには

『関係者各位

2022年春に開催予定のアート&プロジェクションマッピング企画展が名古屋で開催されます。

したがって、本社より派遣されるプロジェクトメンバーが名古屋へ向かい、本企画のために、各部署より1名ずつ代表者を選出。

選抜メンバーより代表としてプロジェクトメンバーを組んでもらいます。

その後、東京本社に異動予定。

クライアントやスポンサー様と本企画成功を進めてゆくように善処願います。

インターコンチネンタル本社 総務部』

と言葉短かに書かれていた。あまりにイルミネーションが眩しくて、名古屋の星は見えない。

星はとても綺麗で見つめると確かに瞬くものなのにそれを見つけられず、人はすぐ目の前の眩いライトに手を伸ばす。

 

「うわあ、これやりたい。本社...東京...来るのってエリートだよね」

目を輝かせる安武聖奈。

 

「これ、東京で企画流れそうになった社長激推し案件じゃない、名古屋でやるのね。これはチャンス...だよね」

ふふっと怪しく笑うのは小竹紗夜。

 

「絶対、手に入れる。本社からやってくる企画部のエリート、そしてビックプロジェクト。腕がなるわ」

風を切って歩きながら、派手なジェルネイルで彩られた細い指で髪を揺らす三宮リノ。

 

たったひとつの「座」を狙い、年代の異なる女の戦いがクリスマス直前から熱いゴングが

打ち鳴らされようとしていた。

 

 

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 東京からやってきたイケメンハイスペ男子の手には女たちが狙う会社のヒエラルキートップに躍り出るチケットが握られている...!