改めて会ってみて、改めて話してみて、よく分かります。やはり母にとって私は娘ではなく自分を飾るためのアクセサリーに過ぎないのです。
出来の良い娘。文武両道、眉目秀麗な娘。どこに出しても恥ずかくない自慢の娘。誰もが羨むいい娘。
そして、それを育あげた自分。
そういった肩書、自分を誇張する存在が欲しいだけなのです。
「心配はしてくれなかったの?」
最初に思ったのはそれでした。母が忙しかったことは何となくわかりますが、いなくなった娘に掛ける第一声が自分の苦労自慢なのはどうなんでしょうか?
「心配するわけないでしょあんたなんて!」
そうですか。もう話すのも面倒なので簡潔に健一さんとのことを報告しました。
「そんな人を許すわけないでしょ! いったいどれだけ私に迷惑をかけたと思ってるの! 育てた恩も忘れて、この放蕩娘!」
案の定、母は反対しました。
「お母さんだって今まで充分自分勝手して来たでしょ?」
「なんですって! 私が今までどれだけあなたの為に――」
「自分のためでしょ!」
私は初めて、親に声を張り上げました。
「私を私立にいれたのも、習い事ばっかりさせたのも、仕事も決めたのも、1人暮らしを許さなかったのも、自慢の娘を作って周囲にひけらかしたいだけでしょ!」
「そんなこと――」
「私の気持ちなんて一度も考えないで! 私の自由を奪って! 本当に私の為だって言うなら、一度でも私の気持ちを考えてくれたことがあったの!」
母は何も言いませんでした。何も言えないのか、言い返せないのか、それはどうでもいいです。
「私がどれだけ辛かったかわかってる? 友達と遊ぶ時間を奪われて、嫌な事を延々とやらされて、結婚相手すら決められて、自分のやりたいことは何もやらせてもらえないで!」
私は矢継ぎ早にまくしたて、今までの想い全てをぶつけました。
「自分で決められないって、決める自由を奪ったのはあなたじゃない! 庄司さんと別れる原因をつくったのもあなたじゃない! 琢磨さんだって連れて来たのはあなたでしょ! あんな男に騙されたのはあなたでしょ! なんでもかんでも人のせいにして、自分が悪いとは思わないの!」
言い終えると、母は少し怯えたように顔を引きつらせていました。ですが何も言ってきません。
「少しは自分を顧みたらどうなの! もうあなたとは今日限りでお別れです! あなたなんて親でもなんでもない!」
感情そのままに、私は怒鳴るだけ怒鳴って家を出てしまいました。
母が追いかけてくるようなこともありません。どうせ私のことなんてどうでもいいのでしょう。
私は続けて父に電話しました。私のことは母に任せきりで無関係なことが多かった父です。
「もしもし、お父さん?」
そこから私は今までの顛末と、自分で見つけた人と暮らすことを伝えました。
最初は少し驚いたような声をしていましたが、
「そうか……今まですまなかった」
と、最後は辛そうな声でした。少し意外でした。私のことなんて特に気にしてないと思っていたからです。