良家の娘として母親に厳しく育てられ、遊ぶ自由すらなかった清美。
そろそろいい歳だからと母からお見合いを持ち掛けられ渋々了承するが、1人目は自身の決断力のなさと母親の傲慢な言動で破談。2人目はモラハラや経歴詐称で清美を騙していたために再び破談。
何もかも嫌になってしまった清美に対して母は叱責の声を上げる。そんな親に嫌気が差した清美は家を出ることに。
息抜きに街を散策し、夜にバーへ行くとそこで健一という男に出会う。初対面の相手でも親身になって話を聞いてくれる健一に清美は辛かったことを全て吐き出し、初めて誰かに自分の辛さを知って貰った。
自分を知ってくれる人が初めてできたことに清美は涙を抑えることができなかった。
思えば健一さんが初めて声を掛けてきたときも、私を気遣ってのことでした。
あとになってバーのマスターに聞くと、健一さんはよく飲み過ぎの人をなだめたり、酔いつぶれた人の介抱をしたりしているそうです。
「おかげで私は潰れた客の相手をしなくて済みますよ。ははははは!」
マスターは心底嬉しそうに豪快に笑っていました。
しばらく一緒に過ごしてみて、健一さんは裏表のない誠実で社交的な方だとわかりました。
「よっしゃマスター明日は休みだあ! 朝まで飲むぞおお!」
たまに羽目を外し過ぎて大変なことになる日もありましたが。
ですが変に気取る事もなくありのままの自分で生きてる姿がとても素敵でした。
だからこそ、私は健一さんの事がとても好きになったのです。
「あの、健一さん」
「どうしたんです清美さん」
「もしよろしければ、私とお付き合いしていただけませんか?」
「……私なんかでよろしければ、喜んで」
こうして私は初めて、自分で好きな人を選びました。
それから数か月は健一さんの家でお世話になりました。
それほど広い家はありませんでしたが特別苦になることはなく、家事をこなして料理を作って、穏やかで心地よい日々が続きました。
「清美さん。結婚のことも考えるのだとしたら、そろそろご両親とも話をつけないといけない」
ある日、健一さんがそう切り出しました。確かにそれは避けては通れない道です。
「でもお母さんが話を聞いてくれるとは思えなくて……」
「それでも将来のことを考えるならはっきりさせないといけないことでしょう」
健一さんは諭すようにそう言いました。
今までの経験から言って母が私の意見を聞いてくれるとは思えません。ましてや健一さんは有名大学を出ているわけでも大企業に勤めているわけでもありません。学歴や家系に異様な執着を持っている母が許してくれるとは到底思えませんせした。
「どうするかは清美さん次第です。どんな結果でも私は君の意見を尊重します。なにかあったら必ず助けになりますよ」
もう逃げるわけにはいきません。私は自分の人生を決める為、母へと会いに行きました。
「今までどこに行ってたのよ、あなたは! あれから大変だったのよ! 私がいったいどれだけ苦労したかわかってるの!?」