「あ、あの、すみません。ご相談したいのですが」
何度かのコール音の後に出た、しっかりとした女性の声に、加奈恵は緊張して声を震えさせながら言葉を紡いだ。いや、震えているのは緊張のせいだけではない。
誰が聞いている筈もないのに、あちらこちらに目を遣り、電話にもう片方の手を添えながら声を小さくする。
『はい、なんでしょうか?』
「あ、あの……。DVのことで」
怖くて怖くて仕方なかった。すぐそこに裕司が居て、聞いているのではないかと思うほどだった。バレたら殴られるに違いない。
しかし、電話の向こうの相手は、そんなこちらの気持ちが分かっているかのように、安心してください、と優しい声で何度も諭してきた。
それから少しして、加奈恵は今の状況を話すことが出来た。結婚して無理に仕事を辞めさせられることになった、避妊もしてくれなかった、子どもが出来たらその子どもにも高圧的で、塾や習い事を休むと極端に怒る、友人を選んで縁まで切らせようとする――。
弁護士は神妙に話を聞いていた。
そして、話しながら最後の方は泣き出してしまった加奈恵を慰めてくれた。
「先生、私、子どもを守りたいです」
そう、それが何よりの加奈恵の願いだった。
この家は、もう春樹が安心していられる場所ではない。そして自分にとってもそうだった。
***
そして、弁護士と話をした加奈恵は、考えた末に裕司と別居をすることに決めたのだった――。
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息子を守るためにも夫・裕司と別居をすることに決めた妻・加奈恵。とうとう家を出る日がやってきて・・・