桃木さんの件があって以来、明らかに裕司に不信感を募らせていた春樹。
それを見かねて加奈恵がとった行動とは!?
桃木さんの件があって以来、春樹は明らかに裕司に不信感を募らせていた。あからさまな反抗などはしないものの、内心では裕司に良くない印象を抱いていることがはっきりとしていた。
「……ごちそうさま」
平日に、久しぶりに全員揃って朝食の時間を迎えていた時のこと。春樹は裕司にほとんど口を利かず、そのまま食事を済ませた。静かにそう言って席を立とうとする。
春樹なりに穏便に済ませようとしているのは分かったが、そんな時に裕司が余計な一言を口にした。
「春樹。あの女の子とは、もう縁を切ったのか」
カチャン、と、春樹の食器が小さく音を立てた。
春樹はその言葉に何も返事をすることなく、そのまま「……学校行く準備してくるから」と、足早に奥の部屋へ去っていった。
裕司は明らかに不満そうだった。鼻を鳴らし、乱暴に読んでいた新聞を置く。
「何だ、春樹のやつ。反抗期なんて生意気な」
「……春樹も、ちょっと疲れてるのよ。段々勉強も忙しくなってるから」
「ふん」
加奈恵が裕司をなだめるが、裕司はそんな加奈恵に興味も無さそうな一瞥をくれた。
一方、加奈恵の中では危機感が高まっていた。このままだと、家族が壊れてしまいそうだ。
***
裕司や春樹が出掛けた後、加奈恵は掃除に忙しくしていた。
以前、加奈恵が体調を悪くした日、掃除や皿洗いがおろそかになってしまった時があった。かろうじて夕食は作っておいたのだが、帰ってきた裕司の一言はこうだった。
『家事も出来ないなんて、妻失格だ』
『家で寝てばっかりいるくせに、サボるなんて気が知れない』
――裕司は、部屋で熱を出しながらぐったりしている加奈恵を見下ろして、そう吐き捨てたのである。