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ホテルを出ると、朝の冷たい空気が心地良かった。んん、と賢人は大きく伸びをする。
ふぁ、とあくびをすると大口を開けている賢人のことを、横を通り過ぎた年配の女性が少し顔をしかめて見た。
うーんと、賢人は更に頭を掻く。そしてやっぱり、と思い直す。
(やっぱり俺は若い経営者よりも、こっちの方が性に合ってるな)
イケメンの会社経営者もいいけれど、やっぱり記者として生活する方が自分の好みではある。
そして顔を上げる。未だ水希が寝ているままであろうホテルの上階を見つめた。
彼女には悪いことをした、という自覚はある。けれど、まあこういった世界は弱肉強食なのだ。こんなことがあったって仕方ない。
(……少し、惜しかったかな?)
いや、気のせいだろう。
多分、明日か明後日か。その頃には、彼女は職を追われることになるだろう。
「ごめん」
賢人は、謝罪の言葉を口にした。ただ、それだけであった。
「あぁ、そうだ。LINE消さないと」
それに気付いてスマホを取り出した賢人は、手慣れた操作で水希の画面を表示させ、連絡先をブロックした。その他もろもろ、消去とブロックを繰り返す。
賢人はそのまま歩いて職場の方面へと向かった。道すがら、先輩記者である草壁に連絡を入れる。
「もしもし、草壁さん。おはようございます。いや、遅くなってホントすいません。でも、良い記事書けそうですよ。はい、これから向かいます。いいネタ持ってますんで」
いい思いをした。そして、全て終わった今の気分も爽快である。
電話を終えた賢人はスマホをしまうと、意気揚々と歩き出した。
Next:11月11日更新予定
次回最終回!水希に甘い夢を見させた後、出版社に戻った賢人は自分の書いた記事が次号の目玉として週刊誌に掲載されると知らされる。