早速場所を移動した賢人は、鼻息も荒く意気込んでいた。
そうそう、これだよ。俺が求めていたのはこれだ。出世や給料に関わってくるであろうスクープ。女と遊ぶのも楽しいが、それは今は二の次だ。まずは地位を固めなくては……。
はじめから読む:二つの顔を持つ男 vol.1~もうひとつの仮面~
既にバーはいくつかに絞り込んでいる。恐らくオギワラが来るのならこのあたりだろう……。
「よっ」
不意に後ろから声を掛けられて、賢人は飛び上がりそうになった。
しかし振り返って、声を掛けてきた人物が、先ほど自分自身が呼び出した相手だと知って安堵する。
「草壁さん」
「ついにやったな。ここにオギワラがいるんだって?」
先輩記者である草壁は出勤日ではなかったが、そんなもの記者には関係がない。簡単に事情を話すと協力しに来てくれると言ったので、ぜひお願いしますと、喜んで頭を下げた。
「そうです。だから、先輩にも張り込みお願いしたいんですけど……」
「手柄はお前に譲ってもいいけど、まあその代わり今度おごれよ。豪勢にな」
にやにや笑って見てくる草壁は、見た目はいかついが、根はかなり気の良い人間である。横取りされる心配もなく、賢人は安心して一緒に行動することにした。
……もし手柄を横取りされでもしたら、復讐、半端なくするけどな。
そんな怖いことを考えながら、まずは二手に分かれる。そう離れた距離ではなかったが、それぞれのバーの入口が目に入る場所で待つことにした。
いつ出てくるのかわからないが、今日は平日だし、あまり長居するとも思えない。そんなに長丁場にはならないだろうと踏んでいた。
***
「おい、結城」
「はい、草壁さん!そっちなんかありましたか?」
「オギワラだ。出てきたぞ」
賢人は、草壁からの電話を受けたまま、慌ててあちらの担当箇所に向かった。相手は徒歩でどこかへ移動しているらしい。タクシーとか乗らなくて良かった……。
まあ、十中八九、向かう場所は見当がつくけどな。
「草壁さん!」
「結城、俺はあいつをつけることにするが……。お前は先回りしとけ」
「分かりました」
「現場を押さえるぞ」
再び急いで目的地に向かう。
場所は、ホテル街である。
(いた……!!)
少し経って、オギワラと髪の長いスレンダーな女性が、とあるホテルに向かっているのを発見した。
(もう少し…。あと少し……)
釣りに似た感覚だと、賢人は思っている。獲物がベストな位置につくのを待つのだ。オギワラと女性の姿が、ばっちりホテルの入口と一緒に映りこむタイミングで……。
(今だ!)
連写する。
オギワラのにやけ顔、女性の肩に手をやっている姿、明らかにホテルの出入り口だと分かるドア、それらが見事に写り――。
そして、彼らは気付かずにそのまま建物の中へと入っていった。
「成果は?」
しばらくして、草壁が声を掛けてきた。
賢人は、したり顔を隠せない。
「……ばっちりです」
***