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宇宙船を模した、特徴的な形の建物がライトアップされているのをバックに、水希と歩く。
「賢人さん、いっつも忙しいから。会ってくれて嬉しいな」
「ごめん、俺も水希には会いたいんだけど、やっぱり時間が取れなくて」
そらぞらしいことを言いながら、水希が腕を組んでくるのに任せていると、彼女はそのうちわざとらしく頬を膨らませる。
「私だって、本当はもっと賢人さんに会いたいんだよ。でも、我慢してるんだから」
「そんなに俺に会いたいの?俺こそ嬉しいな、それ。でももうちょっと我慢しててくれる? 今の仕事が片付いたら、今度から少し時間が取りやすくなるからさ……」
嘘に嘘を重ねながら、賢人はだんだんと思い始めていた。
(ああ……。これは、かなり重い女だな)
いや、仕方ないんだけれど。口説いたのは俺の方だし。
彼女のことを最初に調べた時に、あまり浮いた話がないなあ…なんて不思議に思っていたが、こういうことなのか……。それとも、恋人があまりいなかったから、逆にこのように重くなってしまったのだろうか?
いずれにせよ、この美女がだんだんと煙たい存在になってきた。
早くオギワラにつながる仕事を片付けて、彼女とも徐々に距離を置こうか……。
そんなことを素早く考えている間にも、虹色にライトアップされたガラスの床の上を、水希はコツコツと洗練されたハイヒールで歩いていく。
「そういえば」
賢人は、ふと思いつきで、だしぬけに話を振ってみた。水希が賢人の方を振り向く。
「……水希こそ、最近忙しいんじゃない?疲れてるみたいだよ」
大嘘だ。水希はコンディション管理が完璧だった。顔色だって悪くないし、メイクもナチュラルではあるが決まっている。
しかし、そう気遣われると、彼女はすぐにハッとした顔をした。
「……バレた?すごい、よく見てくれてるんだ。職場の人は気付かないのに」
ここで、しめた、と思い賢人は畳みかける。
「そうなの?まあ、俺からすれば分かるけど……。でも、職場の人はもっと気付いてくれて良さそうなもんだよね。だって上司の人なんか、すごく水希の近くにいるのに」
「うん、ほんとにそう!」
水希の食いつきはすごかった。すぐ傍にいる賢人の方を、ぐい、と向くと、その整った綺麗な眉をハの字にして賢人に訴える。
「あのね、最近特に上司がひどくて……。昔っから人使い荒いんだけど……。クリーンなイメージで売ってるんだけど、本当は怪しいって噂があるくらいの人なんだよ。あんな人が旦那さんだと、奥さん、大変なんじゃないかな。それにね……」
彼女の続いていく話に、賢人は、ぞわっと総毛立つ感覚に襲われた。
……掴んだ。
やった。オギワラの尻尾を掴めた!
きらきらとしたライトアップの中、賢人はひとり興奮を覚え始めていた――。
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さりげなく実業家のことについて触れる賢人にあっさりと上司の愚痴をこぼす水希。話を掘り下げていくと、実業家の裏の顔が撮れそうな場所などがあっさりと割れ、賢人はそこへ向かうことにする。