「あはは、結城さんって面白いんですね」
水希は最初に比べて随分と饒舌になってきていた。酒が入っているせいもあるだろうが、賢人に対して打ち解けてきたのだろう。
はじめから読む:二つの顔を持つ男 vol.1~もうひとつの仮面~
「そうですかね?面白いって言われること、そんなにないんですけど……。でも、楽しんでもらえてるようで良かったです」
「ええ、お話ししててすごく楽しいです。色々ご存知なんですね」
水希の目に尊敬とわずかな熱っぽさが混じる。
色々知っているのは、賢人が『本当の職業』柄、さまざまな業種のことを嗅ぎまわっているせいで、話題が豊富だからだろう。
それと勿論、水希の好みに合わせた内容を喋っているというのもある。
賢人は今回のスクープを得るため、わざわざ事前に水希のことを探っている。それは例えば通っているバーであったり、彼女の経歴であったりしたが、わかる範囲での彼女の趣味嗜好ももちろんであった。
となると、水希が大体好む話題というのもおのずと知れてくるというものだ。
「いえいえ、そんな。僕なんか全然ものごとを知らないんですよ。やっぱり、多少大学を出たぐらいで、そんなに分かるものでもないですよね」
「結城さんは、どちらの大学ご出身なんですか?」
「ああ……。名古屋大学です」
「えっ!そうだったんですか」
さらりと言ってのけると、水希の方はかなり驚いたらしかった。彼女の整った大きな目がぱちくりと瞬きする。
「私、南山大です。……結城さんは、頭が良いんですね」
そう言いながら、カクテルをひとくち飲む。賢人が確認しているだけで、もう3杯目になる。彼女一人で飲んでいた時の分も含めると、もっと飲んでいるはずだ。
「鹿嶋さんは、頭の良い男性は好きですか」
すっと目を細めて、大胆なことを訊ねてみる。すると、水希は意外にも「ええ。好きです」とあっさり答えた。
「だって、私が勤めているところなんて、計算もろくにできないような人だっているんですよ。毎日頑張って仕事をしていますけど、頑張りすぎて疲れちゃいます。……もっと、結城さんみたいな人が職場にいてくれたらなあ」
それだ!と、前のめりになりそうなところを慌てて抑えた。
賢人が聞きたかったのは、そういうところだ。職場への不満――。彼女がそういったことを漏らすことで、ターゲットである彼女の上司への情報に繋がるのだ。
そう、肝心なのは彼女の上司であって、水希自身ではない。
……でも、まあ。
と、賢人は悪い笑みを浮かべる。そして横の席に座る彼女の姿を、改めて上から下まで眺めた。
(ターゲットに至るまでの経緯で、ちょっとくらい味見したっていいかな、と思える見た目だなあ)
そんな品のない考えが浮かぶ程、水希の容姿は整っていた。
ダークブラウンの髪は、さすが美容院通いを欠かさないせいか美しく波打っていたし――、化粧をしているから美人なのかとも思っていたが、近くで眺めると、これは素顔自体、かなり目鼻立ちのくっきりとした、きりりとした印象を与える美形なのだとよく分かる。
それに、体型もなかなかである。細いだけではなく、スタイルが魅力的だった。
普段は男たちに追いかけまわされるタイプだろうなと容易に想像がつく。
(そんなときに突如現れたイケメンに夢を見たって、しかたないけどね)
賢人は心の中で、水希に苦笑する。