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(さて、と)
翌日の昼。
賢人は忙しく仕事をしながらも、水希に関して調べを進めていた。
(ふうん……。毎週水曜の仕事後は、栄のバーに寄るのか)
一言さんお断りというほど敷居が高い場所ではなさそうだったが、下調べも兼ねて、一応行っておいた方がいいかもな……。
そんな風に思いながら、癖でボールペンをくるくる回す。デスクで仕事を進めていると、先輩である草壁が声を掛けてきた。
「どうした? 機嫌が良いな」
「分かりますか?」
ふと、思わず笑みがこぼれる。
「いえ、ね。もうちょっとで、狙ってたのが釣れるかもしれないんですよ」
「ほー」
それだけの言葉で、草壁は女性関係だというのを察したらしい。
「ほどほどにな」
と苦笑すると、軽く賢人の頭を小突いて去っていく。
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そう。賢人は、自分がどういう顔を向ければ女性が陥落するのかということを知っている。
水希を落とすために、下調べに訪れたバーでも、意味深に一人カウンターで飲んでいれば、女性客たちがこぞって熱い視線を向けてきた。
しかし、派手に遊ぶのはおあずけである。
一杯だけで済ませると、賢人はそのまま店を出た。
仏頂面で駅から名城線に乗ると、揺られながら帰宅の途につく。
こっちが彼の本来の顔であった。
あくびをすると、隣に座っていた老婦人が酒の匂いに眉をひそめた。賢人は肩をすくめ、気づかないふりをした。