NOVEL

二つの顔を持つ男 vol.2~甘いカクテルの罠~

水希の警戒心がやや薄れたところを見て、賢人の目に愉悦の色が浮かぶ。

賢人は元々、顔立ちにも体格にも恵まれている。この見た目に難色を示す女性は、そこまで多くないことを体験上知っている。実際、水希も好感を抱いたようだ。

 


はじめから読む:二つの顔を持つ男 vol.1~もうひとつの仮面~

 

 

更に賢人は駄目押しをする。

「そうだ……。良かったら、お店を教えてもらえますか。この近くらしいんですけど」

「お店、ですか?」

水希は目を瞬(またた)いた。

「ええ。ちょうど向かうところだったんです。大学の同期と会うことになってて」

そこで、賢人は事前に調べていた店の名前を告げた。

 

 

「……ああ。それなら」

一瞬だけ間が下りた。水希は店の名前を聞いて、そこが一流であることを悟ったのだろう。

「すぐそこですよ。あそこ、見えますか?あの建物の5階です」

水希が振り返って賢人に店の位置を示す。

「分かりました、ありがとうございます」

にこっと、賢人は微笑んで礼を言う。

 

ここで好感触なら、もっと距離を詰めても良いと思っていたが……潮時かな。初対面にしては、かなり話せた方だろう。

 

水希の態度が硬化する前に、賢人はそろそろ引き下がることにした。

そう。獲物を捕らえるのは今じゃない。もっとじわじわと外堀を埋めた後だ。

賢人は、彼女に見えない位置でにやりと口元を歪ませた。

 

「あの、私、そろそろ……」

「あ、お引き止めしてしまいましたね。助かりました。では」

水希が言い出したので、賢人はあっさりここで撤退することにした。綺麗な笑みを見せ、軽く会釈して水希とは反対方向に歩き出した。

彼女の視線を背中に感じながら。