私とのことを話す雅は、いつも楽しそうだった。だからこそ、自分がその雰囲気を壊すまいと、明るく振る舞ってきたようだ。しかし、私の部下への振る舞いは、あまりに無機質だった。資料を渡せば、ただ修正点だけ言われて納期もタイト。部下の成功は組織の成功、つまりは私の成功だと言わんばかりに会議で報告した。
その結果、島田の仕事も人生も、私が全て奪ってしまっていたのだ。
◆
島田とはその後、暫く話をし、そして別れた。
まだ話を聞いただけではあるが、何かすがすがしい気持ちになっていた。しかし、まだ話を聞いただけなのだ。何も進んでいない。私が全ての始まりの部分に居た。だからと言って許していい内容ではないが、彼女ばかりを責めることもできないと思った。
家に帰ってから、雅とも話をした。ちゃんと真正面から、今の私たちについて話し合った。平穏だが、何もない。何事も起こらない、そんな日々。雅は帰りが遅かったが、熱心に私の話を聞いてくれた。
こんな時間をもっと早くに持てていたら。そう思いながら、今日が明日に変わってしまうまで、ずっと。時には思い出話も交えながら、久しぶりに雅とたくさん笑ったような気がする。とても楽しい時間だった。話を終えた後、二人でベッドに入って眠った。
次の日、いつも通りに起きて、雅と朝の挨拶をした。今月までは一緒に住み、来月からは別々に住むことが決まった。だからそれまでの間、私たちはお互いの荷物と気持ちを
整える。そこから先のことは、お互い、知ったことではない、ということにして笑った。
化粧をし、髪を整え、ジャケットを着る。そうして、いつも通りに会社に向かった。
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会社につくと、全体朝礼の後に島田から会議の報告があった。
島田の立案はうまく通りそうだとのことだった。また、タイアップ先であった清水からも連絡が入ってた。白紙にしたタイアップの案件について、金額面と効果について再度検討したので相談したいらしい。虫の良い話だと思った。しかし、恐らく島田が何か話をしたのだろう。
雅と私たちのことは、島田には伝えていない。私たちが別れた後のことは、互いに知ったことではない。
雅が島田にそのことを伝えようと伝えまいと、もうどうでもよかった。
この後のことは私たち自身で何とかするのだ。
島田には企画案について労いの言葉をかけ、企画成功のためのアドバイスをした。そして、また、次の目標達成のため、各々の仕事に戻っていくことにした。確実に昨日とは違う今日、明日が続いていく。この先、私たちに幸があるように、願いながら。
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最終回!それぞれの道に進むことを決めた真鍋加奈恵と恋人の雅。そして島田…。だが、この一連の流れは、ある人物が密かに企んだ長期にわたる計画であったのだ…。