NOVEL

女の顔に化粧をするとvol.9 ~略奪~

休日。名古屋市内のカフェに、島田と私はいた。

普段は仕事の合間の時間つぶしくらいでしかカフェを利用しないから、注文の仕方に手間取りつつも、何とかフラペチーノのトールサイズを手にして、丸い背の高い机を挟むようにして座っている。

 


前回▶女の顔に化粧をするとvol.8 ~黙秘~

はじめから読む▶女の顔に化粧をするとvol.1 ~思いがけない知らせ~

 

島田はよく取引先に訪問することもあり、普段からよくこのカフェを利用しているようだった。

慣れた手順でカタカナの商品の名前を店員に告げ、さっさと商品を受け取っていた。休日の柔らかな雰囲気の中に、淡い緊張感を漂わせながら、私と島田は各々の飲み物に手をかけている。

 

「それで、お話ってなんですか。この前の件については、喋りませんけど」

「それはいいわ」

 

正直、島田がこの場にすんなり来てくれたことが驚きだった。

先日送ったメッセージへの返信は、「わかりました」の一言だけ。もっと様々な罵声が返ってくるものだと思っていたので、それはそれで不安の種ではあった。

「・・・だとしたら、雅さんの件ですね」

 

島田はゆっくりと、しかし私の目をしっかりと見つめて、話し始めた。

 

 

元々雅と島田は、大学の同期だった。そのなかで、専攻も同じで研究室も近かった二人は、昼休みには一緒に食事を摂り、論文の紹介用の資料集めも、二人で行っていたそうだ。社会人になってからも連絡を取り合い、時々は一緒に遊んでいたとのことだった。

 

そんな中で、島田と仲の良かった当時の私は、島田と私、雅、私の友人の4人で飲みに行くことがあった。そこで、私と雅が初めて出会った。

全く趣味も性格も違う二人だったが、だからこそ歯車が嚙み合ったのだろう。私たちは、そこから暫くして意気投合し、度々遊ぶようになった。

 

島田は、大学の頃から雅に想いを寄せていたらしい。

二人とも社会人となり一年目は激務が襲った。そのため、お互いがある程度落ち着くであろう時期を見計らって想いを伝えるつもりだった。いよいよ想いを伝えようとしたとき、雅が私と付き合っていることを、遊びに誘ったときに言われたそうだ。その時の雅の言い方はいつも嬉しいことがあったとき、島田に伝えるときと同じものだった。

 

あまりに嬉しそうな雅の様子に、島田は「おめでとう」と言うしかなかったそうだ。

その日は、誰にも何も伝えることなく、ただ天井を見上げながら泣いたとのことだった。島田から雅を奪った私は、今度は島田の上司として現れた。