不意に金魚の前でそっと手を添わせ見つめるノアさんの後ろ姿が見えた。
思わず私は反射的に、とても綺麗だと思いシャッターを切っていた。
なんて綺麗な風景なんだろう。作られていない自然な姿。
平日のアートアクアリウムは人が少なくて、しんとして冷房が効いて少し冷たくて。だからこそ、決して偽れない彼の美しさと私の醜さが見えた気がして。私は込み上げる気持ちを隠しきれない。しかし気持ちを飲み込む様に私はにっこり微笑んだ。
「ねえ、ノアさん。インスタ用にノアさんの写真欲しいんだ、一枚撮っていい?」
ノアさんは少し考えたけど、いいよと微笑んだ。
ここでと指定した水槽の前で、彼は視線を向ける。
私が作った彼の姿をカメラに残し”彼氏と”とインスタに加工なしのノアさんの写真を載せた。
その瞬間、コメント欄が爆発したかの様に通知が止まらなくなった。
「えっ!?マリリンちゃん彼氏やっぱいるの?」
「モデルさん?めっっっちゃかっこいい!!」
「年上かな?お金持ちでイケメン彼氏とか羨ましすぎるー!」
一気に向けられた賞賛と嫉妬の視線を、握りしめたスマホからひしひしと感じた。
「...姉さん?」
背後から浴びせられた声に、脳に直接冷水を被った様な気持ちにさせられた。
振り返ると、そこには一番会いたくない人物がこちらをじっと見つめている。
「和貴...」
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偶然会った弟の和貴に嫌味を言われひどく傷ついた茉莉花だが一緒にいたノアに慰められる。そんな優しさ溢れるノアに茉莉花は言ってはいけない一言を口走ってしまう。