私たちはラウンジから出て、ホテルの近くにある自家製パンが美味しいカフェに入った。
私はベーコンとトマトが挟まったベーグルサンドとカフェオレ。
彼はクロワッサンとホットコーヒー。性格の違いが表れる様なブランチメニューだ。
前回:ルピナス―芽吹く街角で 第一章 vol.2~落ち込んだ私は、偶然出会った花屋のハイスペ男子を1日100万円で買おうとする...~
はじめから読む:ルピナス―芽吹く街角で 第一章 vol.1~世間知らずの令嬢インフルエンサー、500万フォロワー女子の悩みとは?~
湯気の立つコーヒーを啜りながらぼんやりと外を眺める彼の横で、私はカフェオレのカップを可愛く持ちながら、すまし顔でインスタ用の写真を撮った。
少し顔を補正して「おはよ♡」と文字を付けて。
すると瞬く間にコメントと、“いいね”の嵐が始まる。
私はそれを確認すると静かにスマホの明かりを消した。
「昨日の話だけど」
不意に会話を切り出してきたのは彼だった。
真正面から見つめられると、光の加減で色素がとても薄い髪と肌だと気づく。
「なに?」
冷たい声を出してしまう。
「万丈さんは」
「茉莉花、でいい」
「...茉莉花はとても綺麗で彼氏なんて何人もいそうなのに、昨日逢ったばかりの僕にどうして声をかけたの?」
彼は真っ直ぐに私に聞いてきた。誤魔化しは効かないな、私は意を決した。
「あのね、私、大学生なんだけど、インスタとかもしてるんだ。インスタでマリリンとか知らない?一応、インフルエンサーなんだけど」
「ごめん、インスタとかやってない」
「インフルエンサーとか知ってる?」
うーんと考える彼。
「少しなら」
「私がそれなの、インフルエンサー。今は大学とかやりたいこととか忙しくて、彼氏とか面倒くさくて作ってなかったけど、アンチが五月蝿いから、彼氏カタチだけでも作った方がいいかなって」
それと...と私ははみ出たトマトを指でつつきながらこう言葉を繋げた。
「あとね...これは頼みのひとつでもあるんだけど、今週土曜日に私、お見合いがあるの。親が勝手に決めた縁談なんだけど、だから恋人がいたら逃げられるかと思って。簡単に言えばお金で解決して揉め事を消そうとしてるの」
浅はかでしょ?と皮肉に笑う私。
まるで、私の人生みたい。
キラキラして、薄っぺらくて飾ってばかりで。
「茉莉花は、相手の人と会ったことあるの?」
彼はコーヒーを一口飲んで、こう言ってきた。
「ない、写真だけ。まるで大昔の結婚みたいでしょ?」
ねえノアさん、昨日、約束したし期間限定の恋人になってくれるでしょ?ともう一度さらりと聞いてみた。心は波の様にドキドキしている。
「もちろん」
と彼は笑った。