私の心を安堵とトキメキが包み込む。どんなに自分が綺麗だと言われようとハイクラス層と言われようと、隣に吊り合う男がずっと欲しかったのだ。
インフルエンサーである自分の隣にいて恥ずかしくない、そして彼氏と呼ぶ人間を求めていたのだ。
この男、落としてみせる、期間限定内に。
「よろしく、私は万丈茉莉花」
手を差し出すと、片手で彼も私の手を握った。
「よろしく、僕は蓮城ノア」
うん、認めるよ、私は彼に恋をしていたんだ。
彼の容姿に、瞳に、花に、雰囲気に、声に、指に。
出会った瞬間から、ぜんぶ自分のものにしたかった。
「今度はいつ会える?休みっていつ?」
「明日」
とあっさり答えた。
私はにっこり微笑むと
「じゃ、明日の11時に名古屋東急ホテルのラウンジで。ブランチでもしよう」
「分かった、君の住所を教えてくれる?花を贈るので」
「それが交換条件だからね、いいわよ」
注文表にさらりと住所を書き込んだ。それをじっと見つめた彼がふっと微笑んだ。
「南山町の豪邸か、なら花は全部入りそうだね。結構な額になりそうだけど、大丈夫?」
「大丈夫よ、前払いでも構わないけど」
「クーリングオフでもされたら可哀想だからね」
花代は後日請求するよ、と彼が答えると、私は店を後にした。
一晩たって、昨日のことは夢かと思ったけれど、枕元に転がったスマホのLINEの連絡欄に”蓮城ノア”とあることに現実だったと知る。
結局、昨日は家に戻らずに時折利用する高級ホテルのスイートに泊まった。
◆
今の時刻は10時過ぎ。
うーんと大きく背伸びしつつ、私はベッドから這い出すと真っ白なルームウェアを
脱ぎ捨てた。
鏡に映った一死纏わぬ姿、アンチが言うように醜くもない、全身を日々綺麗に維持して
きた結果だ。
今日は大学も休講だし、とりあえず目を覚まそうと浴室に入るとシャワーを捻った。
天井から適度な強さで落ちてくるお湯。
湯に打たれながら、ふっと今日、彼とベッドインすることはあるのかと思う。
男性経験がない訳ではない、でも昨日会った男性と、形式的な恋人であったとしても流れでそういうことになるかもしれない。
私は念入りに身体を洗い、髪の毛やメイクに時間をかけた。着ていく服は昨日と同じだけれど、ルームサービスでクリーニングしたおかげで綺麗な状態だ。
ルブタンの靴に足を通し姿見で自分を確認した。今日も最高の私だ。
時間ギリギリになってしまったが、余裕を見せたくてわざとゆっくり歩く。
エレベーターから出ると、外から光が差し込むラウンジが見えた。
”ラウンジに着いたわ、いる?”
LINEで送るとすぐ既読がついた。
”いる、窓側の席”
シンプルな文章、私が見渡すと窓側でコーヒーを飲んでいるノアさんが軽く手を上げた。
私のシンプルな心は、また動き出す。
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令嬢インフルエンサー・茉莉花は偶然出会った花屋の店員・ノアとアクアリウムに来て楽しんでいたが、一番会いたくない人物にばったり出くわしてしまう。