「ねえ、それ...」
私の声は思っていた以上に乾いて掠(かす)れている。
「何の花束?」
青年は困った様に眉を下げ、何も答えない。
「Do you speak..」
「日本語は分かるよ」
低く甘い声が聞こえた。
「この花はペンタスっていうんだ」
「ふうん」
「綺麗でしょ?」
ほら、と指さした指は細くて長い。
「ねえ、貴方」
私はふっと考えるより先に声が出ていた。
「恋人とかいるの?」
なんて馬鹿な質問なんだ、この人はさっき見かけただけの人なのよ。すると少し驚いた顔をしたが、男性は少し考えた後
「今はいない」
『コイツってずっと男いないよね、モテねー令嬢』
さっきの棘ついた書き込みを思い出し、私は彼の腕を掴んでいた。
「??」
「それならっ!」
強い風が不意に吹いてきて、花々は少し震える。
「期間限定で私の彼氏になって!1日100万円でどう?」
男性の瞳が大きく見開かれる。
この世の中で手に入れられないものなど何もなかった。全て手に入れてきた。
そうだ。この世は、金だ。
「君、面白いね。僕の人生をお金で買うの?」
男性は少し首を傾げながら、心底不思議そうに声を上げた。
「正確には恋人の振りをしてほしいのよ、足りなかったらお金は積むわ」
「そんなにお金持ちなんだ」
気持ち悪がる訳でもなく、面白げに話しを聞こうとする男性。今まで会ったことがないタイプだった。
「期間限定なら...いいよ。そうだな、じゃあ...」
ぐるっと彼を見守る花たちを見回して
「僕を連れ出す日の、花を全て買ってくれる?」
分かったわ、と私は大きく頷いた。
交渉成立。