NOVEL

ルピナス―芽吹く街角で 第一章 vol.2~落ち込んだ私は、偶然出会った花屋のハイスペ男子を1日100万円で買おうとする...~

「ねえ、それ...」

私の声は思っていた以上に乾いて掠(かす)れている。

「何の花束?」

青年は困った様に眉を下げ、何も答えない。

「Do you speak..」

「日本語は分かるよ」

低く甘い声が聞こえた。

 

「この花はペンタスっていうんだ」

「ふうん」

 

 

「綺麗でしょ?」

ほら、と指さした指は細くて長い。

「ねえ、貴方」

私はふっと考えるより先に声が出ていた。

「恋人とかいるの?」

なんて馬鹿な質問なんだ、この人はさっき見かけただけの人なのよ。すると少し驚いた顔をしたが、男性は少し考えた後

「今はいない」

 

『コイツってずっと男いないよね、モテねー令嬢』

さっきの棘ついた書き込みを思い出し、私は彼の腕を掴んでいた。

「??」

「それならっ!」

強い風が不意に吹いてきて、花々は少し震える。

 

「期間限定で私の彼氏になって!1日100万円でどう?」

男性の瞳が大きく見開かれる。

 

この世の中で手に入れられないものなど何もなかった。全て手に入れてきた。

そうだ。この世は、金だ。

 

「君、面白いね。僕の人生をお金で買うの?」

男性は少し首を傾げながら、心底不思議そうに声を上げた。

「正確には恋人の振りをしてほしいのよ、足りなかったらお金は積むわ」

「そんなにお金持ちなんだ」

気持ち悪がる訳でもなく、面白げに話しを聞こうとする男性。今まで会ったことがないタイプだった。

「期間限定なら...いいよ。そうだな、じゃあ...」

ぐるっと彼を見守る花たちを見回して

「僕を連れ出す日の、花を全て買ってくれる?」

分かったわ、と私は大きく頷いた。

交渉成立。