NOVEL

絶対美脚を持つ女vol.7 ~転換期~

ナルミがリコに羨望を抱くのと同じように、リコもひと回り年下のナルミを気に入ってくれ、女性経営者の先輩として色々と教えてくれる。

 

『確かにお金も大事、チャンスをものにするのも大事。だけど、それをものにする力を先につけておいたから今があるのよね。まずは実力。それがあれば、お金はあとでついてくるの』

 

ある時、開業準備中だというナルミに、リコはそんな風に笑って教えてくれたこともあった。

 

『リコちゃんはきっと自分でしっかり稼いで成功したいのよね。ちゃんといいものを提供し続けていたら、自然とびっくりするくらい儲かっているわよ』

 

暗に、金持ちがグルメを堪能するための道楽の席で人脈作りをするよりも、今はもっと技術を磨く時期では?と非難されているような気もしたが、不思議とリコの言葉はナルミにさらなる向上心を与えた。

 

そんなリコから甲子の日がいいと聞いても、やはりナルミにはピンとこなかったが、その席にいた経営者たちがみんな口々に「自分はビジネスで使う鞄を新調する日も暦を見て選ぶ」だの「大事な商談日は暦を確認してからセッティングする」だのと言っていた。

 

「甲子の日だなんて、ナルミちゃんよく知ってたな」

「神崎さんも大事な仕事の日はそういう日を選んだりするの?」

 

神崎が当たり前に甲子の日が何かを知っているようだったので、ナルミは思わず聞き返した。

 

「そりゃ、一応。万が一失敗した時に変な後悔したくないからな」

「後悔って。選んだ日にちで本当に何か変わるのかしら」

「まぁ、そこは気分の持ちようだけどな。ま、せめて開業日くらいは縁起のいい日選んだってバチが当たることはないんじゃないの」

「まぁね。半信半疑だけど、成功者のアドバイスは素直に聞こうと思って」

 

コツ、とヒールの踵を鳴らしてナルミが足を組み替えた。

神崎が体を軽く傾けてナルミの脚元を覗き見る。

 

「今日もいい靴履いてんな」

 

今日は、ディオールの新作だった。

特徴的なフラワーモチーフのスリングバックパンプス。

幸いにも履く靴に困ることはない。