多忙で向上心のある男が大概にして女に縛られるのを嫌うように、神崎もまたそういうタイプであることをナルミは知っている。お金にならない恋愛に心を傾けるような男ではなく、イニシアティブは常に自分が持っていないと気が済まない男。
前の奥さんとの詳しい離婚理由は聞いていないが、家族行事を強制されることについて何度も喧嘩したと言っていたから、人と寄り添うだとか、家族愛だとかそういったことに神崎は興味がないのかもしれない。
そういう神崎を知っているから、ナルミは適切に距離を取るように心がけている。
うっかり誘いに乗り、うかうかとホテルで一夜でも過ごしてみれば、次の日にはすぐさまその辺りのつまらない女のうちの一人と見られるのは目に見えている。
今ナルミは自分のサロン立ち上げに邁進しているが、目指すのはもっと先。
愛もお金も手に入れ、幸せに何不自由なく生きていく、目先の快楽に捉われては達成できないもっと大きな目標なのだ。
男に振り回される人生など、一度目の結婚で十分懲りた。
ナルミは頭の中で(だから神崎さんはだめ)と首を振る。
新幹線に乗り込むと、ナルミは早速スマホでメールのチェックを始めた。
平日午後2時のグリーン車は人が少なく、ナルミは窓際のシートから隣の席へ斜めに足を倒して、足を組んだ。
一目惚れして買ったパープルのロングスカートからひざ下の脚が晒(さら)された。人もいないのでそのままにしていたが、少しして通りがかったキャップを目深に被った若い男と目が合った。
(あ……)
ナルミが次に何かを思う間もなく、男はナルミの隣の席へ腰かけた。
「どうも。ここいい?」
男は座ってから、ややかすれた低い声でナルミに許可をとった。
鼻筋の通った男の整った顔立ちは、どこかで見覚えがあったが思い出せない。
(いい? て聞かれても、他に席はたくさん空いてるのに)
怪訝な顔をしながら、伸ばした脚を引っ込める。