東京行きの新幹線に乗り、見知らぬ男から話しかけられ怪訝そうに男の顔を見つめるナルミ。
だが男は他の座席が空いているにも拘わらず図々しくもナルミの隣の席へ腰かけた。
はじめから読む▶絶対美脚を持つ女 vol.1~夢を語る女~
『もしもし、神崎さん?』明るい声でナルミは電話口に出た。
『ナルミちゃん? 今話せるか?』
『うん、でもあと10分で新幹線乗るところなの。急ぎ?』
『新幹線? どっか行くとこ?』
『そう、東京に』
『へぇ、東京なんかに用事あるの?』
『それがね、知り合いから、何か月も予約の取れないお店にお食事招かれたの。ミシュランの和食だって』
神崎相手にマウントを取りたいわけではないが、お前が東京なんかに用事なんかないだろ、と言わんばかりの言葉に少しムキになってしまったことをナルミはすぐに反省した。
神崎はいつまでもナルミを不動産会社のただの事務員である後輩、と見くびっている節があるのだ。
だが、『へぇ。まぁそれは楽しんで』と返事する神崎はたいして興味もなさそうだったので、
『もしかして頼んでた物件のこと?』
と話題を変えると、
『あーそうそう。気に入りそうなところいくつかあったから、メール送っといたわ。見といて。とりあえず送ったとこは全部物件止めてるから、内容ちょっと見て違うなと思ったとこはすぐ返事くれたら有難い』
一度不動産業界に勤めていたから、神崎の言いたいことはすぐに飲み込めた。どうやっているかは知らないが、手付も払っていない状態でナルミの候補となりえる物件を押さえてくれているのだ。
力を借りるところは最大限に借り、しかし迷惑は最小限に抑える。
これもナルミのポリシーの一つだ。
『ありがとう、新幹線の中ですぐ確認する』
バーで会ってお願いした日から一週間と経っていないのに、神崎は仕事が早い。