もともと新体操を習っていたのもあって、四肢は柔らかく育ち、そのおかげか体全体にも無駄な肉はないほうだったのが幸いしたらしい。いや、背が高い分、絶対に太るまいと子どもながら節制した食生活と運動量を心がけていたこともよかったのだろうと思う。
それらの成果が発揮され、どうやら主に自分の脚が他の女の子よりも長くまっすぐであることを高校生になってようやく気が付いたのだ。
かといって、成長期である同級生の男の子はナルミを遠くから眺めるだけで、特段モテた
思い出はない。
時折大人びた上級生が近づいてきたので、押されるがまま何人かと付き合った。しかし、ナルミ自身を好きだと言うよりも、ナルミのような体型の女を連れて歩くことにステータスを感じているらしいと気が付いて別れたことがほとんどだ。
だが、同時にそれほど自分のスタイル、ひいてはこの脚には価値があるのだと知り、子どもの頃より抱えていたコンプレックスが、自慢に変わったのは言うまでもない。
持って生まれたこの脚を生かそうと、十代のころはモデル事務所にも登録した。
しかし、この時は縁とタイミングに恵まれなかった。何より自分の美脚を自覚してはいたものの、それを他人に対して最大限に魅力的に見せる術を、まだナルミは持っていなかったのだ。
チャンスはめぐってこないまま大学卒業を迎え、仕方なく念のためと就職活動をして内定をもらっていた不動産会社へ就職を決めたものの、ナルミの中の野望は細く火を灯したまま消えることはなかった。
ナルミの野望。
それは、この脚を使って愛もお金も手に入れること。
漠然とした野望だったのが、今では叶えるべき目標としてナルミの生きがいにさえなっている。
『もしもし、先生? 今新幹線に乗るところなの』
『あぁ、そうなの? 僕も今新大阪から乗るところだよ。待たせちゃうかもしれないなぁ』
さほど申し訳なさそうでもなく、初老に差し掛かる歯医者が電話越しに言うのを『大丈夫、気にしないで』とナルミはやんわりと返した。
恋人でもない上、この男は大阪在住。今日の会食費も交通費も、全て出すから東京での食事会においでよと誘われた。多少待たされたくらいでへそを曲げるほど小娘という年齢でもない。