美脚を武器にほしいものすべてを手に入れたいと願うナルミ。
そんな彼女の野望とは?
長い夏が終わり、急に肌寒さを感じ始めた10月半ばの名古屋駅構内、ナルミはエルメスのショートブーツの踵を地面にカツカツと小気味よく鳴らしながら、新幹線乗り場に向かっていた。
今日はこれから東京で会食がある。
別の会食で知り合った歯科医院を経営する男が、ナルミを招待したのだ。
今履いているエルメスのアプソリュも、その男がナルミの脚を気に入って勝手にプレゼントしてきたものだった。
ヒールのメタル部分に特徴があり、「これを履きこなせる人はなかなかいないけど、ナルミちゃんなら似合うだろうから」とメッセージ付きでご丁寧にナルミがインストラクターとして働くピラティスのスタジオへ贈ってきた。
スタッフ一同「なになに?」と顔を寄せ合う中、大きなエルメスの包みを開けてみれば、出てきたのはため息が出るようなブーツ。
その場にいたスタッフたちの羨望が注がれた。
他のスタッフから「履いてみたい」とせがまれ試し履きさせたが、どう控えめに言ってもブーツを履いている、というよりは履かれているに近い有様で、しかしナルミが履けば、そのブーツの美しさがより一層際立って見えた。
ナルミの脚は、そこらへんのモデルや女優なんかよりも美しい。
ずば抜けて、特別だった。
ナルミ自身がそれを自覚したのは、高校生の頃だった。
子どもの頃は同級生よりも高い身長が嫌だった。なぜなら男の子はみんな小柄で小さな女の子に夢中だったし、フリルのついたかわいらしい服が似合わないのもコンプレックスだった。友達の頭のてっぺんを眺めながら、そして自分が見上げられるのを感じながらどうして自分はこんなに背が高くなってしまったんだろう、と人知れず悩んでいた時期もある。
それが、高校生になり膝上の制服を着てみると、それまでコンプレックスだった自分の見た目が途端にあか抜けて見えた。
引き締まった足首。ふくらはぎにはほどよく筋肉がつき、スカートをちらりとめくれば、無駄な脂肪のないまっすぐな太ももが尻まで続く。
野暮ったい田舎の中学校のセーラー服を脱ぎ棄て、幾分シンプルな高校の制服を着てみると、ただノッポなだけの中学生だったのが途端に「女」に見えたのだ。
自分がそう思うだけでは、ナルミはただのナルシストで終わるところだったが、高校で知り合ったクラスメートたちが自分に羨望の目を向けているのを自覚した。
仲良くなったあけすけな友達は「ナルミちゃんってほんとモデルさんみたい。スラッとして羨ましい」と臆面もなく言ってくれることもあった。