そんなある日のこと。密がまた癇癪を起こした。
原因はひどく些細なことで、環の仕事の帰りが遅れたとか、その程度のことだった。遅れたと言っても30分程度のサービス残業だったが、それでも密の怒りようは尋常じゃなかった。
「何でそんなに怒るの!?次からは気を付けるって言ってるじゃない……!」
環が困ったように言い返すが、密とはその日大喧嘩してしまった。
……しかし。
翌日、結局怒ったまま仕事に出かけた密が、帰ってきたのは夜8時頃。開口一番、密は頭を下げて謝った。
「ごめんね、環。昨日のことは……。僕も反省した」
環はほっとして、こっそり息を吐いた。
「ううん、私もちょっと意地になりすぎたわね。ごめんなさい、密さん」
「ありがとう。それで、仲直りの印になんだけど……。これ、受け取ってくれるかな」
そう言うと、密はこっそり鞄の中に忍ばせていたと思しき、長細い小さな箱を取り出した。リボンが掛けられていて、ぱっと見てプレゼントだと分かる。
「君にぴったりだと思うんだ。着けてくれるかな」
「わあ……!」
受け取って開けてみると、それは大ぶりなペンダントだった。まあ、プラチナかしら、それとも……。トップのこの輝きはスワロフスキーかな。環はそう考えて、久しぶりに浮かれてしまった。密に手伝ってもらい着けてみると、とてもきらきらした綺麗な輝きで胸元が彩られた。
「ありがとう、密さん……!」
「うん、よく似合ってるよ。これから、僕だと思ってこのペンダントを着けてくれないかな」
密がにっこり微笑んで言う。環は嬉しくなって頷いた。
「うん。密さんからのプレゼントだもの、大事にするね!」
環も笑って頷いた。
……このペンダントが、のちに、あんな騒動の種になるなんて知らずに。
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ある日、急遽職場の飲み会に参加することになり、酒の入った環は久しぶりに楽しい時間を過ごしていた。しかし、そこに環の居場所を知らないはずの密が迎えにやって来た…。