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「環、どうしたの? 最近元気ないね」
『話したいことがある』と言われて呼び出され、密と短い逢瀬を楽しんでいたときのこと。
密にそう勘付かれた環は、下手なごまかし方をするしかなかった。
「ううん、大丈夫。ちょっと仕事で疲れてるだけ」
「そう?それならいいんだけど。たまにはゆっくりした方がいいよ?」
「ありがとう、密さん」
ほら。やっぱり密さんはこんなに優しい。密さんと交際を続けることは間違ってない……。
「で、密さん。話ってなに?」
これ以上この話を続けていると、不安に思っていることをぶちまけてしまいそうだった。
環は話を変えるために、密に今日呼び出した理由を訊ねた。
「うん、実は大事な話なんだ。大事で……。僕らにとって、いいニュースだよ」
環がきょとんとしていると、密が環の両肩をそっと掴んだ。そして、真剣な瞳で環を射抜く。
「……離婚が成立した。すぐに言うのもなんだけど……。環。僕と、結婚してくれないか」
「え」
「もちろん、今すぐは無理だけど……。君とはそのつもりで付き合ってきたから。お願いだ。きっと、幸せにしてみせるよ」
「密さん……!」
考える間もなく、環は密に抱き着いた。
涙が滲む。ぐすぐすと泣きじゃくっていると、密が苦笑しながらもそっとハンカチを出して環の涙を拭いてくれた。――今度こそ、男物の上等なハンカチ。以前見た、女性もののハンカチではなく……。
こんな時にそんなことを思い出してしまうのは嫌だったが、でも、密さんにもうしがらみはないんだ。私と一緒に生きてくれるんだ……。
環はそう思うとますますうれし涙を流した。
「ひ、密、さん。わたし、いい奥さんになるから、どうか……。どうか、宜しくお願いします」
結婚という晴れ舞台を喜ばない花嫁がいるだろうか。憧れ続けた結婚。それをとても信頼できる大好きな人とできる。
こんなに幸せなことがあるだろうか……。