あれから樹里とは何となく疎遠になってしまっている。
樹里からLINEに何度かメッセージは来た。最初はカフェで強引に話を打ち切ったことへの怒り。そして、環がそれでも返信しないでいると最終的には『それでも、私は彼とは別れた方がいいと思ってる。環のことを考えて言ってるんだよ』という内容のメッセージが送られてきた。
はじめから読む:男の裏側 vol.1~地獄の始まりは天国~
(樹里の性格からいって、私のことを本当に心配して言ってくれているのは分かるけど)
残念ながら、盲目状態になっている今の環には大きなお世話としか思えないのであった。
(ごめん、樹里。私はどうしても密さんと別れたくないの)
環は樹里からのLINEを無視した。時々来るメッセージにも返信をせず、だんまりを決め込む。そのうち、彼女からのメッセージはほとんど来なくなってしまった。
でも、これでいいんだ。きっと……。
環はスマホをぎゅっと握り締めた。親友からのLINEが来ることのなくなったスマホはひどく味気なくて、正直言えば寂しかった。
けど、仕方ない事なんだ。
***
何となく、他の女友達とも連絡が取りづらくなってしまった。
樹里の時と同じように、近況を話すと反対されそうな気がして……。
そんなこんなで過ごしている間に、少しずつ孤立していくような気分になっていく。
今まで活発な女性として普通に暮らしてきた分、友達と連絡が取れないのは寂しかった。でも、それも密と結婚するまでの間だと信じよう。
ちゃんと彼と結婚さえすれば、みんな彼の誠実さを分かってくれる。それまでの辛抱だ。
そうやって過ごしていたある日、県内に住む母親から電話が掛かってきた。
「環?最近あんまり連絡くれないわね。どうしてるの?」
久し振りに聞く母親の声は温かかった。だから、環はつい油断してしまった。
「大丈夫よ。あのね、お母さん。私、今度結婚したいと思ってるの」
「え!?そんな、まあ……おめでとう!それはお祝いをしなきゃいけないね」
母親は自分のことのように電話口ではしゃいでいたが、環が嬉々として密の話を打ち明けると、向こう側にいる母親の表情が見る見る曇るのがわかった。
「環。それは良くないわよ。私は反対するわ。多分、お父さんも一緒だと思うわよ。それに、そんな人と結婚するんだったら私たちはちゃんと祝うことさえ出来ないと思う」
環は途端に気持ちがしぼむのを感じた。
(どうして?どうして一人娘の結婚すら祝わないなんて言うの?)
久し振りの母親からの電話は、説教で終わってしまった。
(私が態度を貫くしかない)
電話を切った後、環はより一層強く決心するのであった。