NOVEL

男の裏側 vol.2~親友の忠告~

久し振りに時間が取れたから、近くのカフェで話でも、ということになったのだが……。環が密の話をした途端、樹里は怒り出してしまった。

「いや、有り得ないでしょ。私だったら絶対別れるよ、そんなの。だって騙してたのも同然じゃん。それに奥さんがいながら『君の方が好き』っていうのなんて常套句だよ」

樹里はまるで自分のことのように、密のことを怒ってくれている。

しかし、皮肉なことに、悩んでいた環の心を決めてしまったのは、樹里の言葉だった。

「ちょっと!密さんのことをそんなに悪く言わないで。それに、密さんは本当に反省してるのよ。それで、私のことをちゃんと好きって……」

「だからそれが常套句なんだって!環、今すぐ別れた方がいいよ。あんた、引っ掛けられたんだって」

樹里は強い眼差しでそう言ってきた。

 

冷静な時だったら、彼女は本当に自分のことを心配して言ってくれたのだと分かったかもしれない。樹里はそういう人だから。

けれど、その時の環にはそれが通じなかったのである。密と別れることになったら、今までの自分の判断も、何もかも否定することになってしまう。

 

それに、心のどこかで密が年収1500万の取締役だということも関係していたのだろう――。

けれど、そんなことに目がくらんだのだと考えたくなかった。

私たちは真実の愛で結ばれているのだと、そう思い込むことにしたのである。

 

「いや! 樹里、何で分かってくれないの?私たち、親友なのに!密さんは本当に私のことを思ってくれてる素敵な人よ。それに私もあの人のことが好きなの。私たちのことなんだから、口出ししないで!」

環は強くそう言い切ると、全てを振り切るように椅子から立ち上がった。カフェの領収書を乱暴に取ると二人分の額を用意してレジに出し、その場から逃げるようにドアを開けた。

 

「ちょっと……。環!」

後ろから樹里の声がしても環は振り返ることをしなかった。

 

そして、そんな親友の言葉を大事にすべきだったと……。あの時の選択を後悔することになろうとは…。そう思い知ったのは、はるか後になってからだった……。

 

 

Next92日更新予定

樹里をはじめ、段々他の友人からも距離を置いて行ってしまう環。名古屋から離れたところに暮らしている親にも連絡したが両親ともに反対されてしまう。