***
書店からの帰り道、名駅の近くにある公園に差し掛かった時のこと。
「ねえ、密さん……。さっきのことだけど。もしかして、私とは結婚したくない……?」
環は勇気を振り絞って訊ねてみることにした。もしかしたら、今の私じゃスペックが足りないとか、そういうこともあるのかもしれない。愛されている、大事にされているというのは私の思い込みだったのかも……。
しかし、密の返答は予想外のものだった。
「違う、そうじゃないんだ。ただ……。僕は、実は今、その……。離婚調停中で」
「は?」
「でも、もう少しで離婚が成立するんだ。だから環とは」
「結婚してた……の?」
「僕は君が大事なんだ。君と出会って余計に妻との離婚を決心したんだ。だから……信じてほしい。妻ではなく君としか得られない安らぎがあると思ってる。君と結婚したい。申し訳ないんだけれど、待っててくれないか」
あまりの事実にあっけにとられていた環だったが、そう言って強く環を抱きしめる密の体温にどうすれば良いのか分からなくなる。
離婚が成立していない身でありながら環に告白した密。それを隠していた密。
しかし、今まで見せてくれていたデートでの密の対応は誠実なものだった。
ぐるぐる回る思考のまま、環はただ抱きしめられていた――。
***
「何それ。どうして別れないの!?」
「でも……。彼も今では反省してるのよ」
広路町にあるカフェで、環は久し振りに会う女友達と話していた。
平野樹里(ひらのじゅり)は環と同い年で、大学の頃の同期である。さばさばした男っぽい性格だが分け隔てなく誰とでも付き合うので人から好かれやすい。今はアパレル店員をしていてなかなか会う機会も減ってしまったが、それでも昔から環の親友だった。