ある日、書店で環が結婚のことを取り扱った本を手にすると、密はずっと困ったように歯切れが悪い。
不審に思い、私と結婚したくないのかと密に尋ねる環。すると彼は想定外の言葉を告げる。
今日のデートもとても綺麗なレストランだった。
女性の影がちらついているとは言え、密が環にするまるでお姫様のような扱いは完璧だった。環はいつも夢見心地でいられたし、今まで行ったことがないような高級レストランへの出入りは、まさしく女性のあこがれであった。
しかし、その帰り道。
大型書店に立ち寄った時、環にとってとても大きな問題が発覚する事になる。
「ねえ、密さん。この本の表紙、とっても素敵ね」
それは結婚を大々的に取り上げている月刊誌を環が手に取った時のこと。
ウエディングドレスに身を包んで微笑んでいるモデルがとても素敵に思え、つい手を伸ばしてぱらぱらと捲った。
うん。いつか自分もこうなりたいな……。願うなら近々、密さんと……。
そうした思いから取った行動だった。
(密さんも、同じように考えてくれてるかな?)
つい、頬を赤らめてちらりと横に立つ密を見やる。
しかし、そこで気が付いた。密は何とも言えない渋い顔でその雑誌に目を落としていた。環が不思議そうに見つめると、密はばつが悪そうに視線を逸らす。
「……? 密さん、どうしたの?」
「ああ……。いや、何でもないよ」
密は明らかに歯切れが悪かった。僕、ちょっと向こうの本を見に行ってくるよ、とあからさまな話のそらし方をすると、彼はそのまま環と目を合わさずに、離れたところにある書棚の方へと向かっていった。
(……密さん?)
環は彼の後ろ姿を見つめていた。……結婚雑誌を手に持ったまま。