そう。環はすでに、密に誘われて何度か遊びに行っている。
とは言っても、とても健全なもので、近くの噴水辺りを歩きながら本について語ったり、公園を散歩したりとか……。
2回目のデートは、同じ区内の駅近くにある、紅茶の店に行ってみた。最近オープンしたということで、話題になっていたから行ってみたいと環が言い出したのだ。結果、2回ともとても楽しかった。
素敵な人だな、と確かに思うようになっていた。
***
そして、3度目のデート。その時、環は正式に密から交際を申し込まれた。
それは環の31回目の誕生日だった。前回のデートの時に、環の誕生日が近いことを偶然知った密は、「じゃあ、せっかくだしおごりますよ。良かったらまた会ってくれませんか? 職員さんから見たミステリの感想とか、オススメの本も今度教えてほしいです」と環に言ってきた。
また会おうと言ってくれたのも嬉しかったし、お互い好きなジャンルの本の話が出来るのも嬉しかった。
誕生日に会おうと言ってもらえたのが何より嬉しかった。
環はその時付き合っている男性もいなかったし、友人たちもその日は忙しくしていたため、誕生日当日の予定は何も無かった。自分の誕生日を祝ってくれる人がいることが素直に有難い。
「はい、いいですよ」
そうして誕生日当日。
わざわざ食事に出かけようと言うので、広路町にある瀟洒(しょうしゃ)なレストランを予約してくれたらしい。彼は夜景の見える特等席を予約してくれていた。
そして……。
「あの……。良かったら、僕とお付き合いしてくれませんか」
控えめな物言いとしっかりとした眼差し。環はあっという間に虜になってしまった。
誤解を恐れないで言わせてもらうと、環は今までに他の男性と何人かお付き合いしたことがある。経験の無さから来る舞い上がりではなかった。