二人きりのデートはおしゃれなフレンチレストラン。
アユミの気分は否応なしに高まるも自分にブレーキをかけていた…
神尾が指定した店は、四間道(しけみち)にあるピヴォーテという鉄板フレンチの店だった。
フレンチといっても、その日の食材やリクエストで様々な料理を提供してくれるらしい。
社内メールで飛んできた店の情報を見て、店で落ち合うことになったため、アユミは名古屋駅でタクシーを拾ったが、ゲートタワー前の白い大きなツリーを写真に収める人が多く、クリスマスの賑わいを感じさせた。
「こんな素敵なお店、久しぶりです」
10分遅れてやってきた神尾が席につくなり、アユミは言った。
本当はこんな洒落た店は初めてだが、久しぶりと言うに留めたのは、神尾にアユミが今まで付き合ってきた男たちの質を見透かされたくないからだ。
「来たことない?」
「ないです、四間道って少し離れてるから、来たことなくて。でも昔の街みたいで素敵ですね。石畳だし」
「だよね、おれ結構この辺好きでさ。今日も電話したらたまたま空いてたから、よかったよ」
最初の一杯はビールを注文し、乾杯する。
神尾と二人でのデートは初めてだが、会社の飲み会は多いので何度もお酒を飲む姿は見たことがあるはず。
それなのにいつもと違い、いや、いつも以上に神尾がイケメンに見える。
こんな落ち着いた店で二人きりで食事をするシチュエーションが、まずい。自分にブレーキをかけながら、それを誤魔化すように、アユミはビールを飲んだ。
「……美味しい」
きめ細かい泡が思った以上に美味しく、思わずアユミがこぼすと、神尾も頷いた。
「金曜のビールは最高だよね。コースでお願いしてるけど、苦手なものがあったら先に言っておくといいよ」
そうして話しているうちに、カウンターに客が数人入り、店内は程よいにぎわいとなった。どうやら常連客が多いらしい。カウンター席に座る客とシェフが親し気に会話をしている。
「ここ、よく来るんですか?」
「たまにね。アユミちゃん連れてきたかったんだよね」
不意打ちでの名前呼びに、アユミはビールを持つ手を置いて笑った。