「タワーマンションの人間模様!社長夫人が夫に明かす悩みと決断とは?」
名古屋駅には、巨大なクリスマスツリーが飾られている。
高さ12メートルを超えるそれは雪に見立てたのだろうか、ふんわりと白い電灯が灯り、この街にも冬が訪れたことを知らせる。
暗く染まった空とは対照的に、駅周辺はピンクや黄色など様々な色の明かりで煌々(こうこう)とまぶしい。
―もう12月か。
1年というものは早いものだ。
京子が今の夫と結婚し、名古屋へ越してきてから生活に慣れていくのに必死な最中。
時の流れは早すぎた。
目の前にはツリーの前で歓声をあげながら、写真を撮っている若者がいる。
―はあ…、いやなことを思い出してしまったわ。
思い出したくもない記憶がふと脳裏をよぎり、思わず頭を振りかぶる。
冬の寒さか雰囲気か。
それとも、クリスマスツリーのせいだろうか。
どうもこれらは京子をよりセンチメンタルな気分にするらしく、立ち止まってツリーを眺めていた足を進める。
―タクシーを探さないと。
今日は夫の幸雄と外食をする日だった。
仕事がある幸雄とは、お店で落ち合うことになっている。
結婚して1年とちょっと。
引っ越してから部屋に引きこもり気味の京子を気遣ってか、幸雄はこうしてちょこちょこと外食に連れて行ってくれる。
「昼間も京子の好きに過ごしていていい」「お金が必要ならばいつでも言いなさい」という夫に、京子は感謝していた。
夫の愛情を大切にしつつ、京子もまた幸雄を愛していた。
タクシーが見つかった。
乗り込むと運転手に店の名前を告げる。
有名な店のようで、運転手は「わかりました」と答え、車道に入ろうとウインカーを出した。
白壁にある老舗料亭でいただく会席料理は、口コミでも高評価だった。
都心とは思えない静かで雅な室内と建物。
全国各地から選ばれた食材や珍味は、日本料理本来の美しさを際立たせる。
料理を食べながら、座敷では二人でゆったりとした時間を過ごせるだろう。
京子はシルク100%のセットアップワンピースを手でゆっくりと撫でた。
幸雄が、京子にはネイビーが似合いそうだから、とプレゼントしてくれたこの服を着るのは初めてで、はたして私に似合うだろうかと急に不安になった。
―幸雄さんは、褒めてくれるかしら。
窓から見えるのは次々と流れていく景色。
ひとつひとつ何かを感じることもなく目に映していく。
ミッシェルクランのカシミアコートを胸元へたぐり寄せ、店へ着くまでの20分を無言で過ごした。