SNSで炎上していた記事に【ラナンキュラス】の名前を見つけ、スマホを片手に錦三丁目を走っていた奈緒。
ついに佐伯の過去が明らかに・・・?
前回:錦の花屋『ラナンキュラス』Vol.7 ~いつもあなたを想っています~
~カスミソウ~
「私だけを愛してくれないなら、死んでよ!」純粋で無邪気な『愛』の虚像に散った人。
男が知ったのは『永遠の愛』ではなく、深い『感謝』だった。
佐伯の過去が、遂に明かされる…。
奈緒はスマホを片手に錦三丁目を走っていた。
SNSで炎上していた記事に【ラナンキュラス】の名前を見つけ、想像以上に狼狽した。授業の内容なんて一切覚えていない。クラスメイトの誘いを断り、そそくさと校門を出た。
店の前に来ると、店内から年配の夫婦が出てくる。
花を買いに来た客には見えない。険しい表情をして、挨拶もせず逃げるように路上に停めてあった高級外車に乗り込んで去っていく。
それを見送り、奈緒が店に入るといつもより薄暗く感じた。佐伯の明るい声も笑顔も見えない。
「佐伯さん?」
奈緒が声を掛けると、カタンとカウンターの下から物音がした。佐伯はまるで少年のように、床に座り込んでいる。
「佐伯さん?…大丈夫…ですか?」
「ああ…奈緒ちゃんお帰り」
佐伯の表情は影になって見えない。
「奈緒ちゃんは…この店がなくなったら…悲しんでくれる?」
奈緒は突然、裏切られたような気持に駆られた。
『殺したい程に…愛している…。私だけを、愛してくれないなら…死んでよ…』
SNSの記事を見るまで、歌詞の意味を深く考えた事がなかった、聞きなれたラブソングがBGMのように聞こえてくる。
そして、目に飛び込んできたあの恐ろしい記事のタイトル。
〝社長令嬢、ホストに狂った悲劇の末路″
〝親に隠れてホストに貢いだ、女の末路は心中未遂″
〝クズホストに騙された哀れなお嬢様″
〝人気女性シンガーによる誘発事件?!私を愛してくれないなら、死んでよ!″
奈緒はスマホの画面を、佐伯の眼前に向けた。
「このホストって、佐伯さんの事ですか?ねぇ!!」