“食べることとは生きること、生きることとは食べること”
そんな風に育ってきた私は、食べるための器をつくる仕事をしています。
毎日使って飽きのこない、使うほどに愛着がわくような、普通で素朴な美しいかたちを自分の手でどのように生み出すことができるのか。
そんなことを考えながら、日々作陶しています。
自分の表現を見つけるまで
愛知県で生まれ育ち、幼い頃から食欲旺盛だった私の家には、器好きの両親が集めたたくさんの器がありました。物心がついた頃から自分だけの器を使って食を味わうという経験により、やきものは私にとっていちばん身近な工芸品となっていました。
ただ、その頃から陶芸作家の仕事に強く興味を持っていた訳ではありません。
進学して様々な素材に触れる中で、陶芸はでき上がりの様子が想像とは全く異なることに驚きました。自分にとって最も身近だと思っていたやきもののことを何も知らないのだと痛感し、もっと知りたいという強い好奇心から陶芸の道を選びました。
大学ではまず第一に、電動轆轤(ろくろ)を使用した轆轤成形という技法を習得します。
絶えず轆轤に向き合う時間を通じて、粘土というやわらかい素材が、機械と自分の力加減のみで形を変えていく様子を、文字通り肌で実感しました。素材に残る手仕事の痕、形に表れるつくり手の個性に魅了され、陶芸作家となった現在もメインの成形方法として取り組んでいます。
大学には卓越した造形力や類稀な絵付の才能を持つ、心が躍るような作品を生み出す仲間もいました。その中で自分の表現を模索するうちに、私自身は装飾を削ぎ、独自の釉薬(ゆうやく)表現とフォルムそのものの美しさにこだわった作品づくりに傾倒していきました。
日常に溶け込む作品を
自分の手から生み出された作品が多くの人の生活に溶け込んでいくのを実感し、暮らしに寄り添う工芸、やきものとしての魅力を再認識しました。
どのような人のところへ渡っても、その先の日常に寄り添って自然と佇んでいる様子を追求することは、今でも制作の理念となっています。
そして、可能な限り装飾を省いた表現を選んだ自分自身を納得させる理由のようにも感じています。
辿ってきた道のり
陶芸作家として制作を続けることは決して簡単なことではありませんし、一人のつくり手として認知してもらい、自信を持てるようになるにはとても時間がかかります。
それでも真摯に向き合って続けているうちに少しずつ作品を手に取っていただけるようになり、今では私の代名詞ともいえる青い色を「森ブルー」と呼んでくださる方もいます。
歩んできた時間を振り返ってみると、制作を通して学んだことだけが自分の糧になっている訳ではありません。家族や友人と過ごした時間が糸口になることもあれば、誰かに言われたたった一言で決意できることもあります。
人との出会いでできたひとつひとつの繋がりは、手を動かして得られることと同じくらい、制作において精神的な礎となっています。
時には悩み立ち止まりながら制作を続けることを自己の表現と捉えつつも、自己満足にはならないよう、常に人のため、暮らしに彩りを添えられるようなモノづくりを心掛けていきたいです。
森悠紀子 1992 愛知県生まれ2016 東京藝術大学美術学部工芸科陶芸専攻 卒業2018 東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻陶芸研究分野 修了現在 ギャラリーや百貨店での展示会を中心に作家活動
展示歴 2016 第64回 東京藝術大学卒業修了作品展 /東京都美術館2017 blueⅡ展 /のばな Art Work in Ginza2018 第66回 東京藝術大学卒業修了作品展 /東京藝術大学大学美術館グループ展 てにとるほへと展 /桃林堂青山本店2019 グループ展 よそぃよそぉぃ展 /桃林堂青山本店個展 ひととき /器MOTO2020 グループ展 よりそう手しごとのかたち展 /桃林堂青山本店(’21,’22)二人展 中島美静・森悠紀子二人展-白いうつわ、青いうつわ-(’21)/京王百貨店新宿店6階美術・工芸サロン2021 三人展 祖師谷陶房女子三人展 さんさん展 /アートスペース画空間三人展 冬から新春への暮らしと装い /ギャラリーマミカ2022 個展 森悠紀子作陶展「辿る」/gallery・rental space iroiro. |